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強張った表情を見せた蓮に、璃空と律はあ、振られた。と淡々と思う。まるで他人事である。いや、もちろん他人事である。
客観的に見ても、蓮が悪いのは明白なのだ。よりにもよって彼女の友達だなんて。よりにもよって親友の妹だなんて。
呆れてものも言えない。そんな状況下でよく付き合ってやってるものだと律は自分を褒めてやりたい気分だった。
璃空はうっすらと口角を上げ、テーブルの上に肘を付き、スマートフォンを取り出した。画面を開き、先ほど通話していた相手のトーク画面を開く。
その間にも、叶衣の言葉は続いた。
「私ね、好きな人ができたんだ」
叶衣の言葉は、蓮が想像していたものとは違った。
「……え?」
「だから、蓮ちゃんとはもう一緒にいられない。ごめんね」
……なんで? 素直にそう思った。浮気されたことを知って、怒っているはずだ。自分の友達と浮気をして、付き合ってきた2年間はなんだったのかと声を荒げてもいいはずだ。
こんな状況なのに、叶衣の声はとても穏やかで、全身に鳥肌が立つ。
怒られているうちが華だ。よくそんな言葉を聞く。人に怒られ、怒鳴られ、否定されることがどんなに辛く、屈辱的か。できればそれを味わいたくはないと人は誰しも思う。
ただ、正論が軸にあって、根拠を持って怒られるということは、その先に期待があり、改善の余地があると相手が思っている証拠でもある。
浮気に対して全く触れず、「好きな人ができた」とまで嘘をつかれた。
蓮は、たったそれだけのことで叶衣との間に確実な距離を感じ、見切りをつけられたと確証を得た。
どうせなら、「なんで浮気したの!? この人でなし!」そう怒鳴られた方が楽だった。あんたが悪い。そう言われた方が開き直ることもできた。
反対に謝られ、別れる時でさえ気を遣ってもらっているこの時間がとんでもなく惨めだった。
「……いつから?」
「半年前」
さらりと言われたことで、どくんっと心臓が大きく跳ねる。七海と関係を持ち始めた半年前。「知ってるよ」と遠回しに言われている気分だ。
「そっか……」
こんなにもダメージが大きいだなんて思わなかった。文系の蓮は、文章構成も得意だったし、他人よりも多くの言葉を知っていた。にも関わらず、それ以上の言葉など一切浮かんではこなかった。
「今までありがとうね。蓮ちゃんと付き合えて嬉しかったよ」
そんなことまで言われたら、思わず涙腺が緩みそうで。親友の前だという現実が、なんとか堪えさせた。
蓮が言葉を発する前に切られた電話。直ぐ様ホーム画面に切り替わる様が、蓮と叶衣の関係を示しているようだった。
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