どうしてこうなった

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 同じように驚いていたはずの律も立ち上がり、「俺もまだクリアできてないゲームあるから帰る」とマイペースに言った。 「は!? お前も!? 今の聞いてたろ!? なんだよ、あれ! まるでアイツが俺に叶衣を譲ったみたいな言い方だったろ!?」  既に璃空のいなくなったドアを指差す。大きな薄い木目調の引き戸は、白い壁紙の効果もあって部屋を明るく大きく見せている。  一人暮らしには大きい4人掛けのテーブルに、璃空が残していったコーヒーの痕。  隣には姿勢はいいが、気怠そうに目を細める律。 「そうだよ。璃空、蓮と叶衣が付き合う前から叶衣のこと好きだったじゃん」 「は?」  予想もしていなかった言葉が飛び出し、間抜けな声を上げた。律は、心底嫌そうな顔をし「昔からそういう無神経なところあるよね。女嫌いの璃空があんなに世話焼いてるのなんて叶衣くらいだよ。蓮が本当に璃空のこと親友だと思って見てたならわかったはずだと思うけど」と言った。  律も直接璃空に確かめたわけではない。ただ、見ていたらわかる。わかりやすいほどに。  幼い頃から常に女の子が周りにいて、きゃあきゃあと黄色い声を上げられてきた。腕を引っ張られ、やたらと多いボディータッチとたまに物も盗まれる。平気で友達のことを悪く言う女、噂話だけで蹴落とそうとする女、自分の都合だけでこちらの都合など一切考えない女。  そんな女がこの世に多過ぎて、璃空も律もすっかり女嫌いである。初めて蓮が叶衣を紹介すると言った時、2人が即断ったことは言うまでもない。  それでも今までの子とは絶対に違う。面白いから会ってみろと言われた言葉で渋々紹介を受けた。  叶衣に出会って衝撃を受けたのは律も同じだ。こんなに笑わせてくれる女の子も中々いない。友達でいるには最適だと、律には最初から友達としてしか見られなかったが。  煩い女を嫌う璃空と律とは違い、蓮は男女共に受け入れられる幅が広い。寄ってくる女も嫌いではないし、そもそも好かれている、認められているという状況が好きな男。  承認欲求は強いが、それでも他人を傷付けるような真似はしないと璃空も律も思っていた。 「世の中、他人の気持ちを省みない人間が多すぎる。弁護士は正義を追及する仕事だ」  大学時代、そう語った蓮。司法試験に難なく受かった3人は常に注目の的だった。  両親共に弁護士という璃空と蓮。父親だけが弁護士の律とはまた考え方が変わってくるのだろう。蓮は人一倍正義感が強い。いつの間にかそんなイメージが植え付けられていた。  実際10年間一緒にいても、蓮が振られた話をいくつか聞いたが、浮気していた事実を確認したことはなかった。だから今回もそれはないと璃空も律も思っていたのだ。  そこへきて、救いようのない事実。これなら、「浮気は男のロマンだ」などとバカげたことを言っている男の方が余程自分に素直で忠実だと律は思う。
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