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どうしてこうなった
叶衣は呆然としていた。通い慣れた彼氏のマンション。オシャレな高層マンションは、付き合う前からの憧れだった。いつか私もこんなお家に住みたいなと淡い期待を抱きながら、初めて自宅に招かれた時には心臓がうるさ過ぎてはぜるんじゃないかとすら思った。
綺麗好きな彼は、家具の配置も、リモコンの配置もぴっちりとしている。だからといってそれを叶衣に押し付けないところにも好感がもてた。
3つ年上で高身長、高学歴、高収入の良い意味3Kをもつ蓮。叶衣が蓮と出会ったのは、職場の先輩に連れてこられた飲み会だった。
「私の知り合いですんごいイケメンいるの! あんた、仕事ばっかで枯れてんだからいい男でも見て目の保養にしたらいいわ。でも間違っても惚れるんじゃないよ! うちらとは住む世界が違うんだから! 見るだけよ、見るだけ!」
そう釘をさされた叶衣。色気もなく食い気だけでのし上がってきたお菓子メーカーの営業。
「仁藤さんがプレゼンするとなぜか美味しそうに見えるんだよねぇ」
そんなふうに言われてトントン拍子で主任になった。新入社員として入社した時に主任だった先輩は、今では課長だ。家庭と仕事を両立させながらのバリバリキャリアウーマンである。
新商品のお菓子ばかり食べて5kg太った叶衣に声をかけてくれた先輩、竹中瞳。当時27歳だった彼氏なし、お菓子大好きの叶衣に「今回は彼氏を作る飲み会じゃないの。枯れた心を潤し、忘れた女子力を取り戻すための飲み会なの」と瞳は言った。
今は上司となった瞳の助言にも関わらず、「初めまして。大野蓮です。お菓子屋さんって可愛い仕事ですね」ときらっきらな笑顔を向けられた瞬間、叶衣は恥も忘れて恋に落ちた。
新商品のプレゼンではいつも高評価を得ていた叶衣は、飲みの席でも新商品を熱く語り、場は大いに盛り上がった。
「仁藤さん、面白いですね」
そう腹を抱えて笑う蓮。その笑顔にノックアウトされた叶衣は「お友達になりませんか!」そう図々しく迫り、見事に連絡先を手に入れた。
友達として何度か食事をする内に、紹介された蓮の友人。桐生璃空は、女性顔負けの美形であった。モデルのようにすらりと背が高く、キメ細やかな肌は、チョコレートの影響でニキビが増えた叶衣が思わず自分の頬を不織布マスクで隠したほど。
爽やか、筋肉質の蓮に対し、美人という言葉が似合うスレンダーな璃空。さらさらの髪は、セットしてもすぐにとれてしまうようで、下を向くと目が隠れるくらいの前髪を面倒そうにかきあげていた。食事中の所作も優雅で見ただけで育ちの良さが伺えた。
社交的で明るい蓮に対し、寡黙な印象を与える璃空。
叶衣は、持ち前の明るさをもってしても時折口角を上げて見せるだけの璃空が苦手だった。
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