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璃空は、来月にはプロポーズも考えていた蓮の様子を思い出し、蓮は叶衣のことを本気で好きだったのだと言ってあげたかった。けれど、それを言ったところで2人が元の鞘に戻るはずもなく、なんの慰めにもならないことを知っている。
それに、あのまま結婚していたら確実に幸せにはなれなかった。別れ方がどうであれ、結婚する前に別れられてよかったとさえ思った。
「まあ、叶衣は俺と結婚するわけだしもう蓮のことは考えなくてもいいんじゃないの?」
下を向いていた叶衣がゆっくりと顔を上げる。頬をひきつらせて「私、断ったよね?」と言った。
「うん。そうだね」
「そうだねって……。別にいいんだよ。璃空が責任感じることじゃないし」
「責任?」
「七海は璃空の妹だもん。妹のせいで別れることになったって責任感じてるんでょ」
困ったように笑う叶衣に、璃空は目を大きくさせる。
叶衣にはそう映ってるのか……。七海の尻拭いね。まあ……そうか、ふーん。
璃空は、思ってもみなかった叶衣の言葉に、その考えの方が自然なのかと納得させられてしまった。
身内の責任は己の責任。親友と妹双方の失態により傷付けられた責任を璃空が取ろうとしている。そう思っている叶衣は、璃空の優しさにじんわりと心が暖かくなる。
恋を応援してくれて、破局した後には慰めてくれる。なんて優しく、心強い友人なんだろうか。
七海に裏切られた直後なだけに、叶衣は本物の友情に目頭が熱くなるようだった。
「うん、まあ、気付いてて言わなかった俺も俺だし」
「それはもういいって。私のためだったって璃空が言ったじゃん」
「うん」
「昨日、電話したのが璃空でよかったって思ってるんだ。瞳さんには蓮ちゃん紹介してもらった手前、相談しづらいし。他の友達は子育て奮闘中だしさ」
「そう」
「そりゃまだモヤモヤするよ? だって彼氏と友達が、なんて考えたことなかったし。でも、もし七海が本気で蓮ちゃんのこと好きだったとしたら、私と蓮ちゃんが付き合ってるの見てて辛かっただろうなってほんの少しだけ思ったりしたよ」
コートを包む腕は全く動かない。ただ真っ直ぐ正面を見つめる叶衣。どこまでもお人好しな発言に、璃空は嫌悪すら抱く。
「辛いことなんてないよ。好きならその人が幸せになることを願うのが普通だし。そうできなかった七海が悪いに決まってる」
その言葉の裏には、俺は叶衣の幸せを願って身を引いたのに、七海はそうじゃなかった。そんな意味が込められている。
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