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璃空の思考と叶衣の思考は微妙にずれている。
「……璃空は意地悪だね。そしたら私、蓮ちゃんと七海の幸せを願わなきゃいけないじゃん」
そうくるか。少しずつ意味合いが変わっていく台詞に、璃空は上手くいかないなぁと眉を下げる。
「意地悪じゃないよ。そもそもあれは正攻法ではなかったわけだし」
「まあ……」
「だから叶衣は、蓮や七海が幸せになることより、自分の幸せを考えたらいいと思う」
「そうしなきゃ前に進めないよね」
「うん」
返事をしながら、バックで駐車する璃空。ピー、ピーと機械音が響き、中央の画面がバックモニターに切り替わる。
目的地は伝えないまま、璃空からもなにも言われていない。ランチは断ったはずが、どこかには着いたようだ。
叶衣の実家から15分ほど走った、比較的街中に近い公園の側。日曜日の昼間ともあって、子供達がサッカーボールを追いかけて走り回っている。
ちらほら小さな子供もいた。ブランコに乗っていたり、背の低いすべり台を滑っていたり。
叶衣が子供の頃には、公園といったらもっと多くの遊具があった。ジャングルジムはとても高かったし、鉄棒は4つも高さの違うものが並んでいた。船の形をしたアスレチックのようなものもあったし、すべり台も凝った作りだった。
遊具での事故が相次ぎ、いつの間にか公園から遊具が減っていった。
今の子供達は公園に行ってもつまらないだろうな。そう思ってしまうのは、自分に子供がいないからだろうと叶衣は思う。
自分が母親になる。結婚もしていないのにそんな未来などまだ想像もつかないが、少なくとも蓮と上手くいっていたらそんなに遠い未来ではなかったはずだ。
たまに行った本屋でウエディング雑誌を立ち読みしてみたり、スマートフォンでウエディングドレス マーメイドを検索してみたり。
子供の頃、たまたま観た洋画の主人公がマーメイドラインのウエディングドレスを着ていた。スタイルがよくウエストのくびれがセクシーですっかり釘付けになった。
叶衣は昔からあまりふりふりした可愛らしいスカートなどは好きではなかった。だから大人になったら、大人っぽいマーメイドドレスを着るのが憧れだった。
ただ、理想と現実の違いはついて回る。アメリカ人と日本人ではそもそも体型に差があり、叶衣の158cmという平均的な身長ではすらっと美しくマーメイドドレスを着こなすのは難しいように感じた。
加えてお菓子のせいでウエスト周りについた贅肉。結婚が決まってから短期間で落とせばいいや。そんな甘い考えでいた叶衣は、現実的に考えて自分が着るドレスはおそらく無難なAラインだろうと想像し、痩せる必要のなくなった体はダイエットのダの字も思い出したくないようだった。
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