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ドアの前で璃空がスマートフォンをかざすとガチャリと解錠された音がする。どんな仕組みなのかと首を捻る。
後ろを振り返れば、静岡の街が一望できた。ずっと向こう側に広がっていくビルやデパートや家々。
後ろ髪引かれる思いで璃空の後ろをついてく。
入った瞬間、いい匂いがした。ほんのり甘くて爽やかな香り。
あ、好きな匂い。叶衣はそう思ってすんっと空気を吸い込んだ。
玄関から一直線に進む廊下は、両サイド石壁である。触ればボコボコと凹凸があり本物の石のよう。
な、なんだ……このおっしゃれな家は……。
玄関から既にハイセンスな香りがして、思わず身を引く。靴を脱いでしっかり爪先をドア側に向ける璃空。自宅でも習慣化されているところが、また育ちの良さを感じさせる。
璃空に倣って同じように黒のショートブーツを揃え、後を着いていく。
リビングに続くドアを開けるまでに2つのドアを通り過ぎてきた。入って左手にカウンターキッチン、正面がリビング。進んだ先の右手にもう1つドアがあり、その奥が寝室であった。
蓮の住む部屋とは反対の作りだった。カウンターはバーにあるような脚の長い椅子が2つ並んでいて、垂れ下がるライトが大人なムードを出している。そこだけ見たら、バーに見えなくもない。
ただ、太陽の光が差し込む部屋では夜のムードは出ない。
大きな鏡かと見間違えるほど、しっかりと姿が映る扉の冷蔵庫。どっしりと存在感のあるオーブンレンジにホームベーカリー機器。
リビングはグレーの布地の2人がけソファーにその前にはダークブラウンのガラステーブル。その横にはソファーと同じ生地のオットマンが置いてあり、リビングの一面を埋め尽くすほどに大きなテレビ。
生活感がまるでなく、モデルルームに来たかのようだ。
叶衣はコートとバッグを抱えたままそうっとソファーに座った。初めて蓮の家に行った時も度肝を抜かれたが、これまた絶妙なインテリアだと座ってからも辺りをぐるっと見渡した。
「アールグレイでいい?」
「う、うん」
男の口からアールグレイという言葉が出てくるのがまた不思議である。紅茶でいい? ではなく、アールグレイでいい? ってところがまた璃空らしいと思う。
璃空からはほんの少しコーヒーの香りがした。蓮も璃空も律もコーヒーを好んで飲むが、叶衣はあまり得意ではない。
砂糖とミルクをどっさり入れて、うんと甘くしなければ飲めないのだ。そこまでして飲みたいとは思わなかったし、蓮の家に常備してあった砂糖もミルクも叶衣しか使わなかった。
その話をいつか璃空にしたことがあった。それを覚えてたんだな、と叶衣は少し嬉しくなる。
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