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湯気が立つカップを渡される。両手で受け取り、中を覗き込んだ。透き通った茶色と鼻に抜ける茶葉の香り。
「氷、入れたからすぐ飲めると思うけど」
そんな気遣いもさすがだと思う。本当は紅茶も砂糖入りの方がいいけど……と思いながら一口飲む。無糖でも十分美味しかった。
「……美味しい」
「座ってて。適当になんか作るから」
「……うん」
冷蔵庫を開けながら会話をする璃空の後ろ姿。身長は同じくらいなのに、蓮とは違う。もっと線が細くて色白で、七海と少しだけ似ている。
少しだけというのは、璃空を初めて見た時に七海の兄だと気付かなかった程度である。弁護士で、名字が桐生でという情報が先にあったならもしかして、と可能性を疑ったかもしれない。
しかし、蓮から与えられた情報は、大学からの友達、璃空と律、雰囲気似てるけど兄弟じゃないよ。くらいのものだった。
学部も知らなければ名字も知らない。ただただ、見たことのない綺麗な男性達を目の前に並べられた。
初めて蓮を見た時と同じほどの衝撃を受けた叶衣。イケメンだとか、カッコいいだとかそういう次元ではなかった。
強いて言えば鑑賞用。圧倒的な存在感、いるだけで美しい。
瞳の言った「見るだけよ! うちらとは住む世界が違うんだから!」その言葉は璃空と律の方が似合う気がした。
話してみれば人間味はあって、会話は淡々と進み、不思議なアトラクションでも体験しているかのよう。
璃空も律も少し距離をおいた、深入りしすぎない存在。そんなイメージを抱いていた叶衣。
いつからこんなに距離が近付いていたんだっけ? 野菜を取り出すだけで優雅な姿を見ながらふと思う。
黙っていればあんなにも美しいのに、喋ると不思議な人。それが残念に思える部分もあれば、個性として感じることもある。
ただ言えることは、蓮よりは変わっていて、つまるところ変人である。
「ねぇ、さっきの続きだけどさ……」
「うん」
「蓮ちゃんとの関係、七海から聞いたって言ったじゃん」
「うん」
「急に七海の方から言ってきたの?」
昨日一晩考えていたら、七海は実の兄にどんな心境で友人との関係を語ったんだろうかと疑問に思った。
叶衣は一人っ子である。兄弟がいない叶衣には、兄弟との会話は想像できない。しかし、それでも普通は自分の性事情を兄弟には話さないだろうと思えてならない。
あっさり、なんの感情もなく璃空に会うなり「蓮とセックスしたんだぁ」なんて言おうものなら、コイツ大丈夫かと誰もが思う。
それとも、関係をもってしまったことを後悔し、どうしよう、どうしよう……と不安になって誰にも相談できないまま璃空にたどり着いたのか。
叶衣は、もう関係ないなどと言いながらも、七海がどんなふうに璃空に言ったのか気になって仕方がなかった。
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