尻拭い? いやいや、略奪です

10/28

15092人が本棚に入れています
本棚に追加
/307ページ
 幸せそうな叶衣。「蓮ちゃんがね」と話す度にイライラが募る。  私はもっと前から好きだったのに。よりにもよって私の好きな人を選ぶなんてと叶衣に対する対抗心ばかりが増強した。 「私は、叶衣の相談にも乗ってたんだよ!?」 「聞いたよ。でも、お互いに相手が蓮だって知らなかったんでしょ? 俺達が兄妹(きょうだい)だってことも知らなかったんだから」 「そこは察するべきじゃないの!?」 「じゃあ、なんで七海は叶衣の片思いの相手が蓮だって気付かなかったんだよ」 「それは……」  なぜだろうか。冷静に考えれば、相手は同じなのだから共通する部分が多々あったはずだ。それなのに気付かなかったのは、お互いが片思いによって気持ちが舞い上がっていたからだ。  早く自分の話を聞いてほしい。次に会うのはいつで、どこにいくのか、いつもどんな会話をするのかと楽しそうに話した。  七海と会話をする蓮は、国の未来や政治についてなど討論を楽しむ姿を連想させ、叶衣と会話をする蓮は、新発売のお菓子や有名なケーキ屋さんで食した感想を言い合うポップなイメージを連想させた。  蓮が相手に見合ったレベルで会話をする故に、七海も叶衣もそれが同一人物だと気付かなかったのだ。 「璃空は知ってたんじゃないの!? 叶衣とも会ってたでしょ!?」  癇癪を起こす七海に璃空はほとほとうんざりする。  まさか自分が蓮と叶衣をくっつけたとは言えない。こんな七海の姿を知っていながら、親友にあてがうなんてできなかったのだ。  叶衣のことは自分自身もが惚れた女性であり、叶衣も蓮のことを好きだと言っている以上、そこでくっつくのが1番平和だと思っていた。 「知らないって。それは、2人が付き合った時に言ったじゃん。俺は、七海と同じで付き合うことになってから報告を受けたんだから」 「なんで! なんで叶衣なの!?」 「……なんではこっちの台詞だよ。なんでさ、素直に友達の幸せ応援できないの? 叶衣のこと、大好きな親友だって言ってたじゃん」  七海は、叶衣と出会って少し変わった。丸くなったというか、穏やかになったというか。叶衣を見ていればわかるが、明るく裏表のない叶衣は嫌味がないのだ。  七海の嫌味とも取れる言動すらも笑いに変えてしまうほどだった。  家族旅行にまで叶衣を連れていくほど叶衣のことを気に入っていた。それが、蓮と付き合い始めたと知った途端、以前のように癇癪を起こすようになった。  昔からなにもかも1番でなければ気に入らない七海。そこは璃空とは違った。自分のものを誰かに取られるのも極端に嫌う。
/307ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15092人が本棚に入れています
本棚に追加