尻拭い? いやいや、略奪です

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 七海は、拳を握りしめてぐっと震わせた。力が入っているのがわかる。 「わかってるよ! 叶衣のことは親友だと思ってるし、大好きだと思ってる! だから蓮と付き合った後でも毎年恒例の家族旅行にも連れてってるじゃん。でも蓮に関してだけは別なの! 他のものなら全部叶衣にあげる! でも蓮はダメなの!」 「……なんでそこまで蓮に執着するんだよ。ミスターT大なんて他にもいるだろ? 後輩当たって紹介させようか?」 「別にミスターT大がいいわけじゃない! 蓮がいいの! 他の男じゃだめなのに、それでもあの男と付き合ってやったんだよ! それなのに浮気するとか信じらんない!」  見た目も頭脳も対応も、七海の中では理想そのものの蓮。蓮に勝る男などこの世にいないと信じて疑わない七海。いくら他の男と付き合おうとも考えるのは蓮のことばかりだった。 「叶衣よりも余分に1年の期間があって、それでも落とせなかったんだから仕方ないでしょ」 「落とせなかった? 違う! 私は本気を出してなかった!」 「そんなにムキになるなら、最初から本気で向かい合えばよかったじゃん。そこがそもそも叶衣との違いじゃないの?」  思えば、七海を煽るようなことを言ったのかもしれない。ただ、自分が蓮なら間違いなく七海ではなく叶衣を選ぶ。そのままさっさと叶衣とゴールインしてしまえと璃空は心の中で強く思った。 「叶衣との違いってなに? 私と叶衣となにが違うの!? 学歴だって年収だって見た目だって私の方が上でしょ!? 叶衣なら浮気されないってこと!?」 「そうは言ってないじゃん。そもそも、蓮は浮気するような男じゃないし、叶衣との結婚も考えてるんだよ? もういい加減諦めなよ」 「……結婚?」 「してもおかしくないでしょ。叶衣だってもうすぐ29なんだから」 「私だって29よ!」 「だから、他の男を見つけなって。もう結婚まで考えてる人間のことなんて諦めた方がいい。じゃないと、叶衣と険悪になるよ」 「……わかった。諦める」  あっさりとそう言った七海。やけに物分かりがいいなと眉を上げる璃空。目を細めている璃空に向かって七海は言った。 「本気でぶつかればいいんでしょ。それが私と叶衣の違いなんでしょ?」 「なに言ってんの?」 「これで手に入んなきゃ諦める」 「……なに考えてる? やめときな」 「叶衣は浮気されない女なんでしょ? 私とは違って。もしそこまで愛されてる女なら、潔く諦めてやるわよ」  そう言って乱暴にバッグをひっ掴み、鼻息を荒くして帰っていった七海。 「蓮と寝た。叶衣は浮気されない女じゃなかったよ」  そう七海から電話がきたのは数日後のことだった。
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