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こんなこと、絶対に叶衣には言えないと一部始終を思い出して嫌気が差す。今叶衣が座っている場所に、半年前七海が座っていたのだ。その残像が重なり、いっそのこと引っ越したいとすら思った。
「……叶衣が言ったように、七海は蓮のことが好きだったみたいだね」
加えてそう言えるのが精一杯だった。これ以上は叶衣を傷付けるだけだ。
そもそも蓮さえしっかりしていれば、こんなことにはならなかったのだ。
七海は自分に自信があるが故に、自分の発言にも絶対的な自信と責任を持っている。もしあの時、蓮がなびかなければ七海は発言通り諦めるしかなかったし、璃空も完膚なきまでに論破することができた。
それをまんまと七海の策略にハマった親友。璃空が憤りを感じないはずがない。
ただ、七海の行動はおおよそみえていた。なにをしようとしているのか想像くらいはついた。
本気で止めようと思えば止められた。蓮に前もって釘をさしておくこともできた。ただ、しなかったのは事実だ。
もし仮に蓮が七海に手を出したのなら、叶衣は俺がもらおう。そうあの時に決めていたのだから。
璃空にとっては見え透いた茶番だった。ただ、叶衣に関してだけは可哀想なことをしたと思う他ない。
その分、自分が補ってやればいい。今考えるのはそれだけ。
「そっか……。だから璃空も私に言えなかったんだ」
「まあ……」
「でもまあ、それなら……やっぱりしょーがないか……」
璃空は、顔を伏せる叶衣を見て、あの時の七海を見せたらどんな顔をするだろうかと想像して背筋が冷たくなった。
「蓮がもっとしっかりしてればよかったんだけどね」
「まあ、先に好きになったのは私だし……」
「どっちが先にとかないでしょ」
璃空は鶏肉と玉ねぎを炒めてから白米を投入した。玉ねぎに火が通る匂いがして、叶衣は急に空腹を感じる。
「……お腹減ったみたい」
急に会話が切り替わり、璃空はふっと微笑む。食欲があるだけでもよかったと思う他ない。
「もうすぐできる。待ってて」
璃空がそう言ってから10分も経たない内に白い皿が運ばれてきた。カウンターに叶衣を呼び座らせると、璃空は目の前に皿を置く。
「え……すご」
目の前にはオムライス。マッシュルームたっぷりのデミグラスソースがかかっており、上の卵はトロトロ半熟だった。
丁寧にコンソメスープまでついている。
スプーンを置いて、璃空も隣に座った。
「ねぇ、こんなの洋食屋さんでしか見たことないけど」
「そう? 簡単に作れるけど」
料理を褒められたのにさほど嬉しそうでもない様子の璃空。璃空にとって当たり前のことは、褒められたところで嬉しいことでもなんでもなかった。
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