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叶衣は、蓮の腕に自分の腕を絡め、頭を預けながらやってきた七海の姿を思い出す。
「イケメンだって、高学歴だって好きになっちゃったら関係ないでしょ! フリーなら誰かに取られる前に押さなきゃ!」
そう七海が背中を押してくれたから、恋愛の仕方なんて忘れました状態でも頑張ってこられたのだ。
弁護士一家の七海は自身も弁護士であり、叶衣は「弁護士から見て私ってみすぼらしいよね!?」などと何度も相談していた。
「好きになったら職種なんて関係ないよ」
そう言って歯を出して笑った七海。今でも忘れられなかった。付き合い始めてから、ようやく蓮を七海に紹介した。
その時、指を差し合って「あー!」っと大声を上げた2人が知り合いだったことを叶衣は初めて知ったのだ。
同時に七海が璃空の妹であったこともこの時初めて知ったのだった。
そんな2人が、とてもただの知り合いとは思えぬ親密さで歩いていた。
自分のせいで今日のデートがなくなり、忘年会を早く切り上げてマンションにやってきた叶衣。付き合いのお酒も断って、専らノンアルコールカクテルでやり過ごし、車を走らせてきたのだ。
『早めに解散したから今から行くね!』
そう送ったメッセージは既読にならず、どうやら蓮が確認するのはもう少し後になりそうだった。
叶衣は、もときた道を戻る。一歩、また一歩と歩きながら、気づけば頬は濡れていた。
初めて出会った時のことも、付き合った日のことも、初めての夜も鮮明に思い出せた。学歴なんて、職業なんて関係ない。どんなにイケメンだろうと、蓮ちゃんが選んでくれたのは私なんだから! 何度自分にそう言い聞かせてきたことか。
「お似合いだと思うよ。おめでとう」
そう言って笑ってくれた、美人で優しく面倒見のいい親友は、楽しそうに蓮といた。
……これって浮気だよね? え? 浮気なの? だって、七海と蓮ちゃんが一緒にいたんだよ? 友達の妹と腕組んで歩く? それ以前に彼女の友達じゃん。いや、てかマンションってことは家に上がったってことだよね?
私が来ないとわかってる日に、自宅に招き入れて、こんな夜中に帰るって……。
ヤったのか? ヤったよね? 私が「寝心地さいこー!」って言って跳び跳ねてたベッドでか?
あの巨乳を握りしめて射精したのか!?
叶衣の頭の中をぐるぐると色んな想像が巡る。未だに既読がつかないメッセージを眺めながら、怒りと悲しみとが同時に押し寄せる。
スマートフォン画面の左下の矢印を押す。トーク履歴画面に戻った瞬間、目に入った名前。
【リク】を押して電話をかけた。無意識だったが、この状況を1人で抱え込むには荷が重かった。
チャチャチャチャチャチャ、チャチャチャチャチャチャララン
陽気な音楽が鳴り響く。テンションが高い時なら、思わず体が動いてしまうだろう。空気を読めないその音楽に苛立ちを覚えながら、暫し鳴らしっぱなしにした。
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