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手を合わせて「いただきます」と言った叶衣。早速一口頬張って「ん! ほいしい!」ともぐもぐさせながら言った。
あまり上品な食べ方とは言えない叶衣。スプーン山盛りのどデカイ一口で頬を膨らめる。リスのように上下に動かし、次々に頬張る。
そんな姿も好きだった。璃空の今まで見てきた女性は、なるべくおしとやかに上品に見せた。ティースプーンでも使用しているのかというほどの一口と、すぐに「もうお腹いっぱいです」と膨れる腹。
少食をアピールする女性が多い中、叶衣は璃空よりも食べる。盛り付けられた量も当然叶衣の方が多い。
「璃空天才じゃない!? 弁護士クビになったらさ、レストラン開けるよ」
真顔で言われ、思わず吹き出す。
「弁護士クビとか懲戒解雇しかないでしょ」
他の弁護士に言ったら怒られるぞと肩を揺らして笑う。
「そっかぁ……。でもこんなに美味しいなら他の人にも食べてほしいなぁ」
「他の人には作る気ないから無理」
「じゃあ貴重だ」
そう言って本当に美味しそうに食べる叶衣。璃空はもともと叶衣が食べている姿を見るのが好きではあったが、自分が作ったものをこんなにも美味しそうに食べてくれていると思うと初めて料理を作った甲斐があったと思えた。
「毎日作ってあげるよ」
自らも食べながら、璃空はそう言った。
「うん、また作ってもらう」
「今、さらっと距離おいたね」
「……だからさ、もういいって。そんなに気遣わないで。私も悲しくなるし」
スプーンを動かす手を止め、眉を下げる叶衣。未だに七海の尻拭いだと思っている叶衣には、その責任感が辛くもあった。
「気遣ってるわけじゃないよ。そもそも七海の尻拭いなんてするつもりないし」
「……え?」
思っていた言葉と違う言葉が飛んできて、叶衣の目は点になる。ぱちくりと瞬きをし、ゆっくり首を傾げる。
「ただの責任感だけで一生他人の面倒なんかみると思う? この俺が」
そう言われて初めて、確かに……と疑問に思う。
あまり他人に関心のない璃空。その璃空が七海のために自分と結婚するなんてことはありえないと今になってみれば当然のことを思った。
「え? そうだよね。じゃあ、なんで?」
キョトンとした顔でもう一口オムライスを頬張った。自分で思っていたよりも腹が減っていたのか、食欲は止まらない。
「俺が叶衣と結婚したいから」
「……だから、なんで?」
本気でわけがわからないと顔を歪める叶衣。璃空は、我ながらよく叶衣と蓮をくっつけられたなと笑えてきた。
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