尻拭い? いやいや、略奪です

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 璃空は皿に目をやり、黙々と食べる。思えば、自分から想いを告げたことなど生まれてこの方なかったなとふと思ったのだ。  友人はいた。自分が人付き合いが面倒だと思っていても、他人から変わっていると言われても、なぜか数人は周りに残った。  単なる興味本位で近付いてきた人間も、璃空の性格を受け入れられなければ離れていった。  璃空の方は、他人に関心がなかった。1番にも執着したことはない。それでも叶衣の存在だけは、なぜか自分でもわからないほどに気になった。  形は違えど他人に媚びない自分を持っているところが似ている気もしたのだ。  叶衣となら付き合ってもいい。結婚してもいい。そう思っていたはずが、「叶衣がいい」に変わるまでそれほどの時間はかからなかった。  ああ、これが恋ってやつか。なんて不意に思ったものだ。だったら今まで付き合ってきた女性達はなんだったのだろうかと自分でも不思議だった。全く好きじゃなかったわけではない。興味もないのに付き合ったりはしない。  ただ、叶衣の言ったどちらがどれだけ好きか。については、おそらく蓮よりも俺の方が叶衣のことが好きだろうなという自覚はあった。 「俺、叶衣のこと好きだからね」  さらっと言ってしまった。だって、告白をどうするのか知らないから。どんなふうに想いを告げられてきたのかも思い出せなかった。  目を見て告白するなどという高度なことは、今の璃空にはできそうになかった。だから、とりあえず食事は続ける。  隣でもカチャカチャとスプーンを動かす音がする。叶衣が食べている証拠だ。 「私も璃空好きだよ」  これまたさらりと言われた。けれど、璃空の中にあるのは絶句。あっさり好きだと言われた。蓮と別れたその日に。それは冒頭に「友達として」が抜けているに違いなかった。 「いや、そうじゃなくて」 「……いつから」  静かに言った叶衣に、なんだ、わかってたのかと軽く息をつく璃空。叶衣も頭が悪いわけではない。結婚したいと言われ、好きだと言われればそれが恋愛の類いであると示唆していることくらい理解できた。  けれど、複雑な気持ちが渦巻いて、怒りや悲しみや不安や葛藤が頭の中でぐちゃぐちゃになる。 「蓮と付き合う前から」 「……そう」  叶衣は必死に頭を回転させる。とりあえず返事だけはした。でも、蓮と付き合う前からという言葉を理解するには難しすぎた。  それは、叶衣のことを好きでいながら、蓮との恋を応援したことになるから。なにも知らずに璃空に頼ってきた自分がまるで悪者のように思えるから。
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