尻拭い? いやいや、略奪です

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 叶衣は、どうして璃空に蓮との恋を預けたんだっけ。と記憶を遡る。 「俺に任しておきな」  そう言われて素直に従った。だって、璃空には彼女がいた。ふと思い出した。出会った頃、璃空には彼女がいたのだ。  年上の、綺麗な女性。(なまめ)かしいほど色気のある女性だった。近付いたらいい香りがして、余裕のある顔で微笑んだ。  茶色の緩いウェーブがかった髪がキラキラしていて、ジムのトレーナーをしていると言っていた。  一度デート現場に遭遇して、そのままお茶をすることになったのだ。明るく溌剌としていて、けれど大人の余裕をもった女性。こんなふうに生まれてきたら人生違っただろうななんて思ったものだとあの時の光景を思い出した。 「ねぇ、恵里菜(えりな)さんは?」 「恵里菜……? ああ、とっくに別れてるよ」 「いつ!?」 「蓮と叶衣が付き合う前」 「……え? 言えよ」 「なんでよ」  お互いじっと皿を見つめたまま会話をする。なんとなく気まずいのだ。  叶衣はこれで、彼女と別れ自分に好意をもってくれていた相手に恋愛の成就を協力させたことを確信したのだ。 「……なんで別れた?」 「浮気」 「……」  またか。どこもかしこも浮気。浮気するくらいならなんで付き合ったんだよ。  叶衣はいい加減うんざりする。また一口運びながら「恵里菜さん、浮気するような人に見えなかった」と言った。 「うん、してない」  平然と璃空は言う。 「……え?」  ということは、当然璃空の方が浮気をしたことになる。蓮の浮気を知っていて隠し、浮気をされて泣いている自分に慰めるように近付き、蓋を開けてみたら浮気男だった。  そんな流れが一気に巡り、璃空に対する不信感が爆発する。 「最低」 「まあ……」 「……相手は?」  それでもどんな女と浮気したんだ。まさかお前も友達の彼女とか、妹とかじゃないだろうな。そんな思いでじっと睨み付けた。  その視線を感じ取った璃空は頬杖をついて叶衣の方を向き、スプーンを持ったまま人差し指を叶衣に向けた。 「……なに」 「叶衣」 「は?」 「浮気相手」 「……はぁ?」  意味のわからない回答にぐっと顔を歪ませる。こんな時にわけのわからない冗談なんかで誤魔化そうなんて、ここまで腐った男だったとは思わなかった。  不信感は嫌悪に変わる。すぐにでも帰ろうか。そう思った。
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