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けれど、璃空は会話を続けた。
「家族旅行、行ったでしょ。七海と」
「……は?」
「その前の週、結婚する予定でうちの実家に挨拶に行った。向こうの実家は後回しだったけど」
「それが……なに?」
「家族旅行でお土産を買ってくるから取りにおいでって母親が言ったみたいで、予定の時間よりも早くに着いたらしい。そしたら、キャリーバッグを引きずった叶衣がうちの実家から出てくるのを見つけたって」
「は?」
「私にはお土産1つで済ませるのに、叶衣ちゃんは家族旅行に連れてく仲だったのねって喧嘩別れ」
ふっと璃空はおかしそうに笑った。
叶衣はさあっと青冷める。
なんで……? え? 私のことを浮気相手、もしくは本物の婚約者とでも思って喧嘩したってこと?
叶衣はわけがわからず困惑する。自分はただ、友達とその家族と旅行に行っただけだ。まさか、そんなことが起こっていただなんて知る由もない。
「なんで止めなかったの? 妹の友達だって」
「俺達、お互いに知らなかったじゃん。間に七海がいたこと」
そう言われてはっとする叶衣。蓮に友達だと紹介されたのはお互い様で、七海が璃空の妹だと知ったのは、七海に蓮を紹介した時だった。
蓮と付き合う前に別れていたということは、お互いに七海との関係性を知らなかったことになるのだ。
「叶衣がうちの実家に出入りしてるはずがないって言った。でも、実際は出入りしてたわけだから、結果俺が嘘ついたことになってる」
「そんな……」
「意味わかんなくて母親に聞いたら、数年前から七海のお友達の叶衣ちゃんって子が一緒に旅行に行くって言ったでしょ? って言われて。そもそも聞いてないし、知らないしってなったけどね」
「じゃあ……私のせいで別れたってこと?」
「そうなるね。だから俺も婚約破棄された被害者ってこと。それで、叶衣はその元凶。ということは、責任もって俺と結婚する義務がある」
そう言われて、ああ……そうか。叶衣は一瞬思う。
それからすぐにぶるぶると首を左右に振り「違う、絶対に違う! 私悪くないじゃん! 七海の友達だったって誤解が解けたなら、恵里菜さん追いかけて弁解すればよかった話だよね!?」と声を張り上げた。
「チッ……」
微かな音が聞こえ、璃空はまたオムライスを食べ始めた。
「あんた今舌打ちしたでしょ!?」
「してない」
「した! 絶対にした! なんで恵里菜さんのこと追いかけなかったの!?」
「そもそも結婚、結婚って騒いでたのは向こうで、俺は追いかけるほどの興味はなかったんだろうね」
「最低かよ!」
「俺、まだ30だったし。向こうは35だったから焦ってたんだろうけど」
「益々最低!」
きーっとなってスプーンを振り回す叶衣。その姿にふっと頬を緩める璃空は「しょうがないじゃん。叶衣の方が好きになっちゃったんだから」と言った。
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