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叶衣は、驚くほどよく眠れたような気がした。目が覚めた時には、瞼の重みも倦怠感もなかった。
すっと目が開き、意識が戻る。璃空の匂いがして、ああ……いい匂い。とぼーっと考える。
それに暖かくて、安心した。
なんとも言えない、この人肌が……人肌?
ぼやぼやする頭で暫し考える。
いる、隣に。
ばっと掛け布団を胸元まで下ろすと、うつ伏せでスマートフォンを触っていた璃空と目が合った。
「おはよう。あと20分あったのに。早いね」
普段通りの璃空に叶衣の思考は停止する。
今日1日で一体何度フリーズし、思考停止したことか。
璃空の言動が一々邪魔をし、すんなり対応させてくれないのだ。
「あ、あんた……なにして」
「寝顔見てた」
「ね、ねが!?」
「可愛いと思って」
にっこり笑ってそう言う璃空。頭をハンマーで殴られたような衝撃を受ける叶衣。
ま、待って……誰だ、この男は……。私が知ってる璃空じゃない。顔も声も璃空だけれど、璃空じゃない。
思考は錆び付いて全く動く気配がない。にも関わらず、璃空は自分のペースを絶対に崩さない。
「もう眠くないの?」
「ね、眠くない……」
「そっか。じゃあ」
なにが、じゃあだ。そう思っている内に、璃空が体を起こし、スマートフォンをサイドテーブルにコトンと置いた。
叶衣がそれをちらりと横目で追うと、気付いた時には上に璃空がいた。
「え、なに……?」
「するでしょ? セックス」
「はぁ!? し、しない! しないよ! なんでそうなる!? 寝かせてくれただけでしょ!?」
「攻める前に隙を作るのは常識でしょ?」
「非常識だわ!」
ひぃっと仰向けのまま胸の上で腕を縦にくっつけて、身動き取れずに固まる叶衣。
しっかりと両肩の上辺りに両手を置かれて、固定されてしまっている。
璃空は不思議そうに首を傾げる。
「しといた方がよくない?」
「いや、どうしてそうなった!?」
くわっと犬歯を剥き出しにして大声を出す叶衣。
「え、だって叶衣言ったじゃん。七海のナカに入れたモノは無理だって」
「……え?」
「蓮と七海が初めて関係もったのが半年前で、昨日も会ってたってことは過去に何度も七海を抱いてるわけじゃん。てことはだよ?」
「やめて、最後まで言わないで」
そんなことはわかっている。既に、七海を抱いた体で叶衣を抱いていることなど。
「七海のナカに入れたモノ、入れられたよね?」
「言うなっつってんだろ」
憤りも相まって、無表情でそう言った叶衣。考えないようにしていたというのに、こんなタイミングで実感させられるとは思わなかったと嫌悪が募る。
「俺としとけばリセットされるでしょ」
「どーしてそうなった!?」
なるべく体を小さくし、丸まる叶衣。歯をくいしばっていいっととなった口元を握り締めた両手の拳で覆った。
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