尻拭い? いやいや、略奪です

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 え……なに、これ……。キスってこんなに気持ちよかったっけ?  とろけるようなキス、夢中になるほどのキス。などとは聞くが、叶衣は生まれてこの方そんなキスなど体験したことはなかった。それなのに、璃空の与える優しいキスは、口内を伝って、心の傷まで舐め上げられているようだった。    唇が離れれば、はあっと吐息がこぼれ、透明の糸が璃空と叶衣を繋ぐ。  頭がぼーっとして、体が痺れるようだった。  叶衣は、文字通りとろんとした表情で息をつく度、胸を上下させた。  その姿を見て、璃空の鼓動はどんどん速くなる。その先に進みたくて堪らなくなる。こんな顔が見られるなら、もっと早くキスくらいしておけばよかったと後悔すらした。  璃空は、叶衣の首筋に顔を埋めた。叶衣が車に乗り込んだ時から気になって仕方がなかった。  すっと伸びた白い首筋と、綺麗なラインを浮き上がらせている鎖骨。舌先でその線をなぞると、叶衣の体がしなった。 「り、璃空っ! まっ、やだっ……」  やだと言うわりにいつもよりも高い声。ぞわっと璃空の中の血が騒ぐ。  重なり合っただけの衿元を広げれば、簡単に中の下着が顔を出す。  目的の鎖骨を甘噛みしながら手を滑らせれば、青い肩紐が指に引っかかった。そのまま外側に力を入れれば、細い肩が露になる。  ぺったんこなの。叶衣がそう言った胸の膨らみが、ほんの少しだけ覗いて見えて、璃空の下半身は、痛いほどに膨れ上がった。  こんなに興奮したことなんて、今まであったっけ?  璃空の記憶の中でもないに等しい。 「や、だ……璃空、やめて……」  そう言いながら、叶衣は解放された手で、璃空の右手首を掴んだ。はっ、はっと既に息を乱しながら、潤んだ瞳の叶衣。  璃空は一旦中断し、静かに言う。 「叶衣がやだって言っても、やめてって言っても、泣いても止めない」 「なっ……」 「でも、本気で嫌になったら……俺のこと蓮って呼んで」  悲しそうに眉を下げた璃空に、叶衣の心は張り裂けそうになる。 「……わかった? 続けるよ」  璃空は、叶衣のウエストで縛っていた紐を解き、右手を襟元から滑り込ませた。暖かい肌が手に吸い付き、柔らかさが伝わる。  指先にコツンっと突起がひっかかり、叶衣が「あっ……」と甘い声を上げた。  指先で軽く何度か引っ掻くと、その度に叶衣の体がビクビクと反応し、吐息が漏れる。  すっかり叶衣の体に夢中な璃空。そんな璃空を見て、ずるい。と叶衣は思う。  本気で嫌なら蓮って呼んでなんて……。そんなことができるはずがない。  最中に名前を間違えられることが、どれ程辛く、苦痛か。そんなに悲しくて、切ないことなんてない。  ずっと好きでいてくれたのに、蓮ちゃんとの仲をとりもって、私のノロケを聞いて、裏切られたら慰めて、その挙げ句、セックス中に「蓮ちゃん」って呼ばせるの?  璃空はずるい。そんなこと絶対にできないとわかっていて言うんだから。  璃空の手がタイトスカートを捲り、ストッキングに手を掛ける。中に侵入した手が、太ももを撫でるようにしてするり、と脱がす。
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