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暫くベッドの上でゴロゴロしていると、璃空が不意に「おやつ食べる?」と尋ねた。
「おやつ?」
「そうおやつ。もう少ししたら夕飯の時間だけど」
「おやつ、食べる」
うつ伏せで顔だけ璃空に向かせながら叶衣は言う。まだ裸の肩が見えていて、また反応しそうになる璃空。
その欲をぐっと押さえる。さすがに自分も体力を使いすぎたと立ち上がった。
「おいで」
いつの間にかズボンまで履いていた璃空。叶衣は気怠い体を起こし、ゆっくりと下着とワンピースを身につける。ストッキングはめんどくさいのでやめた。
のそのそとリビングへ行くと、先ほど食事したカウンターに直径12センチのベリータルトが置かれていた。
「……タルト」
目の前に張り付いてじっと見ると、甘酸っぱいベリーの香りがする。
「うん、好きでしょ?」
声のする方を見れば、グラスを持ちながらにっこり笑う璃空。
なに……もう、本当、なんなの……。璃空ってこんなに笑う人じゃなかったのに。
なんなの、天使なの!? あんな綺麗な顔で笑うのはずるい。
家に着いてから、調子が狂うほどの笑顔を度々見せる璃空。今まで、2人きりでいたってそんな顔は一度だって見たことがなかった。
叶衣に好きだと言ったところからこんなふうに笑顔を見せられたら、本当に特別なんじゃないかとは思わずにいられなかった。
更に、ベリータルトが好きだって話はたった一度さらっと言ったくらいだ。
「ベリーが好きなの。ストロベリーももちろんだけど、ブルーベリーもクランベリーもラズベリーも大好き!」
いつかそんなことを言った。ケーキには全部乗っている。ゼリー状のプルプルしたものが、ベリーの光沢を際立たせている。
じっと見つめていると、ふと気付く。
「あれ……これって……ビジュ?」
ベリーの間に散らばっている色とりどりのチョコレート。直径1センチ程度の正方形で、フランス語で【宝石】を表す商品名のビジュ。
叶衣が営業に回ってようやく契約がとれ、先月発売開始となった新商品だった。
カラフルなチョコレートの土台に、小さな薔薇の形をしたチョコレートが乗っていて、そこに3つのアラザンがあしらわれている。プラチナのような光沢感が美しく、まさに見た目は宝石のよう。
璃空が【映え】という言葉を使ったように、今の時代にもってこいの美しくも可愛い商品だった。
ただ難点なのは、誰でも手軽にをもコンセプトにしているお菓子メーカーでありながら、これだけ凝った商品にしたために値が張るのだ。
宝石箱のような長方形に6個並んで440円。コンビニやスーパーで買うには高すぎるチョコレートである。
安くて美味しいチョコレートが売れている中、この商品が売れてくれたらと願いを込めて販売したが、まだ販売1ヶ月でありながら売り上げが伸び悩んでいた。
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