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「うん。美味しかったから。ベリーが酸っぱいから合うと思う」
そう言って璃空は、ミルクティを出した。おそらくこれもアールグレイである。
「え、凄い……」
「せっかく見た目拘ってるからそのままでもいいけど、なんとなく」
「うん……可愛い」
感動すらした。12センチのホールケーキだからこそ、6個という数がちょうどいい。また、赤や青のベリーの間に、白や黄色のビジュが差し色になっていて、そこだけ特別感が増していた。
新商品だよ! 叶衣はそう言って先月1箱璃空にあげた。
それを美味しかったからと自ら購入し、叶衣の好きなベリータルトをアレンジまでして提供してくれたのだ。
叶衣の胸はじんっと熱くなった。
「食べていいの?」
「いいよ。元々作る予定なかったから、タルト生地ねかしてないし、ちょっとぼろぼろするかも」
「……ん?」
元々作る予定なかった? タルト生地ねかしてない?
叶衣は首を捻る。どこからどうみても店頭販売しているタルトである。見栄えもよく、このゼラチンの光沢具合も申し分ない。
「え、これ買ってきたやつだよね?」
「うん。ベリーは冷凍のやつ。叶衣が寝てる間に解凍させたからまだ半分凍ってるかもね」
「え? 待って、タルトは作ったの?」
「ん? 生地とカスタードだけだよ」
しれっとそんなことを言う璃空。
「な、え? 手作りってことじゃん」
「まあ……市販のものだとカスタードが甘くできてるから、チョコレート乗せるとベリーがあってもちょっとくどいと思う。だから、カスタードを甘さ控えめにしたかった」
「え……? だから作ったの?」
「うん。別にそんなに難しくないし。まあ、俺はプロじゃないからそのレベル求められたら困るけど」
いつも通りの涼しい顔でグラスの中身をコクコクと飲んでいる璃空。上半身裸の体が目に入った。華奢だと思っていたのにちゃんと筋肉のついた細マッチョ。
抱かれてる時、気付かなかったー!
急に恥ずかしくなる叶衣は、慌てて視線を落としてソファーに置きっぱなしにしてあったバッグに近付く。それからスマートフォンを出して、タルトを撮影し始めた。
「SNS、やってないんじゃなかった?」
普段なら食事の写真など撮らない叶衣に怪訝な顔をする璃空。
「うん、これはね社用のやつに載せるの! いい?」
「いいけど……」
「友達がアレンジしてくれた可愛いケーキって載せるんだ! これでもお菓子好きの女の子のフォロワーがわりと……」
話ながら振り向けば、璃空がじっと目を細めて叶衣を見ていた。どこか不機嫌そうにも見える。
「えっと……」
「友達? まだ友達なの? 婚約者でいいじゃん」
「や、そこ? いや、そもそも付き合ってないし」
「セックスまでしといて捨てるつもり!?」
「あんたが言うな。ほとんど強制わいせつだったわ」
「いや、確実にやめてもらえる魔法の言葉を与えたのに使わなかったじゃん」
「あんたには良心がないのか」
勝手な言い分に叶衣も目を細める。あそこで蓮ちゃんと呼んだら、確実に傷付いたろと目で訴えた。
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