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「それ、仕事でしょ? だから俺とも取引にしよう。レシピ1つ採用につき、セックス1回でどう?」
クリームの付いた指先をチロっと蛇のように舐めながら、これまた蛇のようにじっとりと見つめられる。
既に熱っぽい視線と、艶やかなパフォーマンスに、叶衣は頬をひくひくとひきつらせる。
こ、コイツってやつは……。
「あんた、ヤることしか考えてないの!?」
「体から入っちゃったんだから、体から慣らしていく方が自然じゃない?」
「自然じゃない! なんで仕事とセックスとが繋がるわけ!?」
「だって叶衣、仕事に一生懸命だから無償で世話してもらうの嫌いでしょ?」
平然とそう言われて、叶衣の胸はまたトクンと柔らかい音を立てる。
「別に俺はいいよ。叶衣のこと好きだし、それで営業も売上も上手いこといくなら料理もレシピもいくらでもあげるけど。でも、そうやって人の好意に甘えて仕事が成功したら、後悔するでしょ?」
「う……」
叶衣以上に叶衣のことをわかっているような口振りにぐうの音も出ない。ぐっと言葉を失ってそっと口をつぐんだ。
それから少し間を置いて、そっと口を開く。
「ねぇ、璃空はさ、嫌じゃないの?」
「なにが?」
「私は、蓮ちゃんと七海が肉体関係にあったことショックだったよ。私がその蓮ちゃんに抱かれてたことも」
「そりゃそうだろうね」
「でも璃空は、蓮ちゃんに抱かれた私を抱くのは嫌じゃないの? ……お下がりだよ」
散々蓮の愛情を受けてきた叶衣。七海とセックスをした蓮に触れられたかと思うと、嫌悪感も募った。けれど、璃空はそんな叶衣のことを求める。単に男と女の違いなのか、そうは思えど腑に落ちない。
「お下がりじゃないよ。それに、別に嫌じゃない。そもそも俺が好きなのは叶衣であって、蓮の元カノじゃないし」
言葉のチョイスが絶妙だ、と叶衣は思う。
璃空の中ではいつまでも蓮と付き合う前の叶衣と変わらない。付き合っていた頃も、別れたあとも、叶衣は変わらない。その自信があった。
「それに、叶衣言ったじゃん。こんなに気持ちいいの知らないって」
ふっと笑われて、急に恥ずかしくなる。
私、そんなこと言った!? とフォークを持ったまま思わず両手で頬を覆った。かあっと顔に熱がこもり、羞恥心に飲み込まれる。
「それって、蓮が知らない叶衣を俺だけが知ってることになる。セックスって行為は同じでも、過程も中身も違う。する度に新しい叶衣を発見できたら、それだけで特別じゃない?」
ふんわりわたがしみたいな笑顔で璃空が言うものだから、叶衣には璃空と寝た後悔など微塵も感じなくなってしまった。
「……そんなこと言われるなんて思ってなかった。璃空が言った蓮ちゃんと七海の尻拭いってやつだと思ってたのに」
そっと顔を伏せれば、隣の璃空はクスクスとおかしそうに笑う。笑うところなんてあったかと怪訝な表情を浮かべる叶衣。
「さっきも言ったけど、そんなことしないよ。あえて言うなら、立派な略奪かな」
璃空はそう言って子供のように笑った。
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