相応しい嫁

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 プライドが邪魔をして、自分からアプローチできない。それは現在の七海であって、根底は小学生の頃、好きだった男の子に振られたことが原因である。  勉強はお世辞にもできるとは言えなかった。けれど明るくて、足の速い男の子だった。  クラスの女の子達と話していた時、ひょんなことから七海の好きな男の子の話になった。成績優秀な七海から、その男児の話が出たことに皆が驚いた。  小学生という無垢な年頃。面白半分でわっと噂は広がる。 「おれ、ななみきらい。おんなのくせに可愛げねぇもん」  そう面と向かって言われた時にはどれだけ苦しかったことか。中学生に上がってからその男の子が付き合ったのは、勉強も運動もそこそこの普通の子だった。  それ以来、自分から好きになる子とは上手くいかない気がした。  また振られるかもしれない。勉強ができて美人で将来有望な弁護士。女としての可愛気はない。そう男達から言われているようで、少しずつ卑屈になる。  それでも男の方からアプローチされれば、今までの努力が肯定されたようでまた自信を取り戻せた。  そんな中、蓮と出会った。自分に相応しいのはこんな相手。そう漠然と思っていただけだったのに。 「七海はいい女だと思うよ。他人より秀でたものを持っている人間っていうのは、それだけの努力をしてきた証だって思うし。今まで苦労したろ? お互い、大変だよなぁ。弁護士一家で期待され続けるのって。どこかで息抜きしないと、ぐって眉間に皺寄ってその綺麗な顔が台無しになるぞ」  そう言って爽やかな顔で笑う男だった。ただ表面だけで相応しい相手だと思っていた蓮は、欲しかった言葉をくれる優しい人だった。 「ちゃんと眠れてる? 根詰めて勉強ばっかしてると頭爆発するぞー。お前の兄ちゃん、俺より成績下だったんだからな。それでもあんなだろ? いいんだって、そんなに頑張んなくても。俺だって頑張っても律には敵わないから頑張るの止めたわー」  友達の妹として気遣ってくれているとわかっていても、「頑張らなくていい」そう言ってくれたのは蓮だけだった。  心の安らぎをくれる人。唯一気を張らなくてもいいと言ってくれる人。こんな人と生涯一緒にいられたなら、どんなに素敵なことだろう。  七海はすっかり蓮に夢中だった。  なのに、選んだのは親友の叶衣。叶衣を選ぶ理由など、本心ではわかっている。癇癪もちの七海が蓮といる時と同じように安らげる存在。  ただ、その2人がくっついたら同時に2人共七海の側からいなくなる。どちらも側においておきたいのに、どちらも七海を特別でいて欲しいのに、私以上の特別になったら私はどうなるの。と気持ちは違う方向へと向かっていった。
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