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蓮が彼氏で叶衣は親友。その構図が七海の理想だった。その理想を叶えられれば心は満たされ、穏やかでいられる気がした。
怒りに任せて璃空に虚勢を張り、蓮と寝た。その時にはとんでもない高揚感と優越感を得た。
ただ、家に帰って冷静になれば叶衣を裏切ったことへの罪悪感が沸き上がる。叶衣が知ったらどう思うだろうか。
嫌われるに決まってる。恨まれるかもしれない。そんな恐怖が渦巻く。
その恐怖を拭い去ってくれるのは、共犯の蓮。蓮と会っている時には罪悪感なんて微塵も感じない。心は満たされて、自分のものだけになればいいと欲張りになる。
また家に帰れば叶衣の顔が浮かんで罪悪感が顔を出す。その繰り返し。
いっそのこと叶衣とは自然に別れ、蓮と七海の浮気など知らないまま過ごしてくれたらいい。蓮と七海はそのまま関係を続け、何事もなかったかのように親友を続けられたら……と都合のいいことを考えるようになった。
蓮と叶衣が別れた事実がこんなにも嬉しいのに、今後叶衣とどう接すればいいのか。完璧を装ってきた七海にとって困難な課題であった。
どうしても避けたいのは、蓮も叶衣も両方失うこと。それだけは絶対に嫌だった。
叶衣が七海のことを恨んでいるのは確実。だったらこの際、蓮だけ手に入ればそれでいい。そんな考えにまで至った七海。
「今後のこと、ちゃんと話し合おう」
そう言われた瞬間、正式に付き合える時がきたのだと心が震えた。
叶衣に対する罪悪感も、完璧を覆す劣等感も全て吹き飛び、蓮と結ばれる喜びに支配された。
昨日訪れたばかりの蓮の自宅。玄関のドアを開けた瞬間、コーヒーの香りがした。なんとなく人の気配を感じて「誰かいたの?」と七海は尋ねた。
「いや……」
ばつが悪そうに蓮は目を伏せる。璃空と律に静かに責められたなどカッコ悪くて言えたものではない。
あれから暫く1人で考えていた蓮。思い出すのは叶衣の笑顔で、電話1本で終わった関係が辛かった。
書斎へ行き、叶衣に渡すはずだった指輪を取り出した。ピンク色のリボンを外し蓋を開けた。キラリと光るダイヤはそれなりに値が張ったものだ。
シルバーよりもピンクゴールドが似合う。そう思って叶衣のことを考えながら購入した。来月の記念日には、叶衣の左手の薬指にはめるつもりだったもの。
美しく輝く光が、か細く見える。
なんで浮気なんてしたんだろうか。今になってそう思うが、この半年バレなきゃいい。そう思ってきたのも事実だった。
最後に一目会いたかった。指輪を見ていたら、嬉しそうな叶衣の笑顔が想像できて痛いほどに胸が苦しくなった。
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