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七海とのことははっきりさせなければ。そう思って七海を呼んだ蓮。インターフォンが鳴るまで書斎に籠っていた。
慌てて出ていったものだから、書斎のドアが閉まりきっていなかった。
七海をリビングに通す途中、先頭を行く蓮がそっと書斎のドアを閉じる。
ーーバタン
大きな音が響いた気がした。普段家に1人でいても生活音など気にならないはずなのに、この時ばかりは耳につく。
七海は不意にそのドアが気になった。いつも通されるのはリビングと寝室だけ。入ったことのない部屋がある、というのは気になるものだ。
「ねぇ、ここ書斎?」
断りもなくドアを開けた七海。廊下の光がパソコンの向こう側にある箱を照らした。はっと息を飲んだ七海は思わず駆け出し、近寄った。
直感で指輪の箱だと察したのだ。
蓮が止めるよりも先に箱を手に取った七海。さっと蓋を開ければキラッとダイヤが光る。
「うわぁ! キレイ!」
目を輝かせてそれを手に取った。
ほとんど一瞬の出来事で、蓮はすぐに七海の後を追った。
「やめろって」
蓮がそう言ったにもかかわらず、七海は自らの左手の薬指にはめた。
「わっ、ぶかぶかだ。ちょ、これ何号?」
ははっと笑って顔の斜め上に手をかざした。カラット数の高いダイヤが廊下からの光を一点に集め、ピカピカと点灯しているように見える。
思わず魅了されている内に、蓮が七海の左手を掴んだ。
「やめろよ! 外せ!」
普段全く怒ることなどない蓮が、とんでもない剣幕で怒鳴った。見たことのない鋭い視線を七海に向けたのだ。
本来であれば叶衣の左手にはまるはずだった。それが一度も通されることなく、七海の指にはまったのだ。
勝手に書斎に入られたことも、指輪を見られたことも、更に自らも触れられずにいたその指輪に触れたことも、全てが蓮の逆鱗に触れた。蓮の憤りは頂点に達した。
びくりと肩を震わせた七海。初めて目にする蓮の姿に怯えた目を向けた。
「ご、ごめん……そんなに怒るなんて思わなくて……」
傲慢な態度をとろうとも、周りの人間はなんだかんだ寛容に許してくれた。呆れたり、怒ったりしてもここまで怒鳴られたことなどなかったのだ。それが普段怒ることのない穏やかな人間が相手であれば、萎縮するのは当然のこと。
七海はすっと指輪を外し、蓮に手渡した。それを奪うようにして取り上げた蓮。ぎゅっと拳の中に握り込むと、ダイヤを支持する金具が手のひらに食い込んだ。
「真剣に今後のことを話し合うつもりがないなら帰ってくれていい。もう、二度と会わない」
怒りに震える声で蓮は言った。
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