相応しい嫁

4/24
前へ
/307ページ
次へ
 七海とのことははっきりさせなければ。そう思って七海を呼んだ蓮。インターフォンが鳴るまで書斎に籠っていた。  慌てて出ていったものだから、書斎のドアが閉まりきっていなかった。  七海をリビングに通す途中、先頭を行く蓮がそっと書斎のドアを閉じる。 ーーバタン  大きな音が響いた気がした。普段家に1人でいても生活音など気にならないはずなのに、この時ばかりは耳につく。  七海は不意にそのドアが気になった。いつも通されるのはリビングと寝室だけ。入ったことのない部屋がある、というのは気になるものだ。 「ねぇ、ここ書斎?」  断りもなくドアを開けた七海。廊下の光がパソコンの向こう側にある箱を照らした。はっと息を飲んだ七海は思わず駆け出し、近寄った。  直感で指輪の箱だと察したのだ。  蓮が止めるよりも先に箱を手に取った七海。さっと蓋を開ければキラッとダイヤが光る。 「うわぁ! キレイ!」  目を輝かせてそれを手に取った。  ほとんど一瞬の出来事で、蓮はすぐに七海の後を追った。 「やめろって」  蓮がそう言ったにもかかわらず、七海は自らの左手の薬指にはめた。 「わっ、ぶかぶかだ。ちょ、これ何号?」  ははっと笑って顔の斜め上に手をかざした。カラット数の高いダイヤが廊下からの光を一点に集め、ピカピカと点灯しているように見える。  思わず魅了されている内に、蓮が七海の左手を掴んだ。 「やめろよ! 外せ!」  普段全く怒ることなどない蓮が、とんでもない剣幕で怒鳴った。見たことのない鋭い視線を七海に向けたのだ。  本来であれば叶衣の左手にはまるはずだった。それが一度も通されることなく、七海の指にはまったのだ。  勝手に書斎に入られたことも、指輪を見られたことも、更に自らも触れられずにいたその指輪に触れたことも、全てが蓮の逆鱗に触れた。蓮の憤りは頂点に達した。  びくりと肩を震わせた七海。初めて目にする蓮の姿に怯えた目を向けた。 「ご、ごめん……そんなに怒るなんて思わなくて……」  傲慢な態度をとろうとも、周りの人間はなんだかんだ寛容に許してくれた。呆れたり、怒ったりしてもここまで怒鳴られたことなどなかったのだ。それが普段怒ることのない穏やかな人間が相手であれば、萎縮するのは当然のこと。  七海はすっと指輪を外し、蓮に手渡した。それを奪うようにして取り上げた蓮。ぎゅっと拳の中に握り込むと、ダイヤを支持する金具が手のひらに食い込んだ。 「真剣に今後のことを話し合うつもりがないなら帰ってくれていい。もう、二度と会わない」  怒りに震える声で蓮は言った。
/307ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15801人が本棚に入れています
本棚に追加