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「終わってないでしょ。知らないふりして続けたら?」
「……あんたには心がないのか」
「だって、あんなに好きだったじゃん」
「……うん」
璃空は知っていた。叶衣と蓮が付き合う前から、叶衣の片思いだった時から相談を受けてきたのだ。
初めは璃空のことが苦手だった。あまり笑わず、淡々と話すところも、その辺の女性よりも美しい顔も。しかし何度か話してみれば、彼は誰に対しても同じ対応で、時にまともなことを言う。弁護士一家で当然弁護士として働く璃空が、お菓子に一生懸命な叶衣を馬鹿にすることもなかった。
T大卒業生の友人達と集まった時も、叶衣には難しく理解し難い話で持ちきりになると、璃空が気を使ってお菓子の話題を振った。
変わっているようで、時々まともで、それでいて頭の切れる璃空には、あっという間に蓮に惚れているという事実を掴まれた。
璃空は叶衣に無理だとは言わなかった。それどころか、同じ法学部で仲良くなったと言って叶衣の知らない蓮のエピソードを教え、蓮が振り向いてくれるよう協力までしてくれたのだ。
その時にはまだ璃空が七海の兄だとは知らず「すっごい良い人が協力してくれてるの! 今ではいい友達なんだ!」と七海に笑顔で話していた。
そんなことも思い返せば笑い話だが、今の叶衣には何一つ笑えることではなかった。
「あんなに協力してもらったのにさ、なんかごめん」
「別に。叶衣は悪くないんでしょ」
「うん……多分」
「なんで浮気してるってわかったの?」
「見た。マンションの前で」
「……相手も?」
一瞬璃空の言葉が止まった。その違和感に気付く。もしや、と思いながら叶衣は続けた。
「七海だった」
「……あー、そう」
「あんた、知ってたでしょ」
璃空の反応から、叶衣は目を細めて問い詰めた。いくら例年よりも暖かいからといって、さすがに長時間外にいれば、鼻の頭も痛くなる。
先ほどの涙のせいもあって、垂れてくる鼻水をすすった。
辺りは暗くて、同じ間隔で並ぶ街灯の真下だけが仄かに明るい。駐車場まで早歩きで距離を詰めた。
「七海から聞いた」
「いつ!?」
「半年くらい前じゃない?」
「はぁ!? 知っててあんた黙ってたわけ!?」
叶衣は、ポケットの中で震える左手を握りしめた。璃空にまで怒りが移り、共犯者のようにも思えた。
「蓮のこと好きだったじゃん。言わない方がいいと思った。……叶衣は聞きたかったの? 俺の口から」
そう言われて叶衣はぐっと押し黙る。
聞きたかったのだろうか。半年前、「蓮、七海と浮気してるよ」そう璃空から聞いたなら、どんな心境になったかな。
考えてみたが、もやもやするばかりでわからなかった。
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