相応しい嫁

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 七海はふと考えた。このまま蓮と付き合って叶衣に報告すれば、叶衣は浮気を責めてないわけだから表面上は上手くいくんじゃないか。そんなふうに。  叶衣も好きな人がいると蓮に言った手前、それ以上何も言えないはずだった。蓮に自分も他に男がいたならお互い様だろと言われればそれまでなのだ。  そんなことを蓮が言うとも思えないが、叶衣の性格であればおそらくもう蓮のことは責めないだろうと思えた。  しかし、七海の方はどうだろうか。親友という立場でありながら、彼氏に手を出したのだ。惚れていた蓮には去り際のいい女を演じておいて、後から七海を容赦なく責め立てるつもりかもしれない。  様々な考えが巡り、これはどうやって叶衣に言い訳するべきか、あるいはもう二度と連絡を取らずにいるべきかと頭を悩ませた。 「正直俺は、まだ整理ができてない。叶衣と別れたことで色々あるし。実家のこととか……」  そう蓮が発したことで、七海の思考は一旦停止した。    ……整理ができてない? 「え?」 「結婚するつもりで実家に連れてってたし、母親からも今後どうするつもりだって連絡もきてる。こんなタイミングで別れてまたうるさく言われるだろうし、今後も七海とこのままっていうわけにもいかないと思ってる……」 「ちょっ……と、待ってよ! じゃあ、私ともこのまま別れるってこと!?」  七海は、予想もしていなかった蓮の言葉に青冷めた。廊下からの光だけが2人を照らし、気持ちを更に暗くさせる。 「普通に何事もなかったみたいに付き合うとかできないだろ? 七海だって叶衣になんて言うつもりだよ……」  蓮は、大げさともとれるため息をつき、前髪をかき上げると乱暴にその手を下ろした。  七海は目を泳がせ、言葉を考えた。なんとか蓮を説得しなければと思考を巡らせる。普段、弁護を担当する際にはこちら側に有利な言葉が面白いほどに出てくるのに、この時ばかりは何も思い付かなかった。  それは、相手も弁護士だから、という理由だけではない。 「わ、私は……蓮と関係をもった時から覚悟を決めてた。もし叶衣にバレたって言い訳なんてしないって! だから……私と叶衣は……蓮と同じ。終わり……」  実際に口に出したら急に悲しくなった。蓮が手に入れば、叶衣は切り捨てる。そんなふうにも思ったのに、蓮が離れていく。そう考えたら、叶衣との縁が切れることも無性に切なくなったのだ。 「……そりゃ、友達の彼氏と浮気してりゃこのままってわけにはいかないよな……」  蓮も、自分と叶衣とのことしか考えていなかったが七海と叶衣の関係を改めて見直し、七海の心中をも察した。 「……私、叶衣とも元に戻れないし……蓮がいなくなったらどうやってこの心の隙間を埋めたらいいの?」  少し距離ができた2人の間を埋めるかのように七海は蓮の腕を両手で掴んだ。すがるように頬を腕に擦り寄せ、まるで捨てないでと言うかのように頭を預けた。
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