どうしてこうなった

7/25

15097人が本棚に入れています
本棚に追加
/307ページ
 翌日、璃空は蓮のマンションを訪れていた。何の用事か見当もつかないままの蓮は、笑顔で璃空を迎え入れる。  玄関には、2足の靴。男物である。綺麗好きの蓮は、いつも自分の靴は1足しか出しておかない。その時履く靴以外は、きっちりシューズインクローゼットに整理されていた。  璃空がやって来るのをわかっていて玄関に2人分の靴。高価な黒のスニーカーを見て、璃空はアイツしかいないと察する。靴に対してあまりこだわりのなさそうなヤツだが、この種類が1番履きやすかったと言って人気の何万もするスニーカーを新作が出る度に購入しているのだ。  スニーカー好きの人間は箱ごと大事に取っておくようだが「履くために作ったものを履かないって、目的にそぐわないことはしない」と言って履き潰す。とはいえ、ヤツも普段はスーツに革靴だ。スニーカーを履いている率の方が確実に低いのは璃空と同じだった。 「律、来てんの?」  先を歩く蓮の背中に向かって璃空は言った。 「うん。3人で集まるの、久しぶりだろ? 律も璃空もお互いに会いたいと思ってさ」 「……別に」  璃空は、抑揚のない声でそう言った。蓮とも律とも大学の同じ学部だったことからよく話すようになった。  名前が似ていて母音が同じことから、よく律と間違えられた璃空。律と呼ばれれば、璃空が振り返り、璃空と呼ばれれば律が振り返る。そのやり取りが面倒で、周りは皆桐生、守屋と名字で呼んだ。しかし、蓮も律も名前で呼ぶものだから、璃空も気付けば名前で呼ぶようになっていた。  守屋律(もりやりつ)は、入学当初から有名だった。センター試験をパーフェクトに近い数字で通ってきた化け物がやってくるらしいと噂で持ちきりだったのだ。  どんな化け物かと想像していれば、さらさらストレートヘアの美形だった。美人、その言葉が似合うほどにどの角度から見ても均等な顔立ちだった。中性的という言葉が似合う律と、ほとんど女顔と言われる璃空。それが余計に2人を間違わせる原因だった。2人並ぶと雰囲気さえも似ていて、実は生き別れた双子だとか、腹違いの兄弟だとか根も葉もない噂も立った。  間違えられるのも、似ていると言われるのも釈然としない。律は、化け物呼ばわりの噂通り、入学すら難問だと言われている東京の一流大学法学部を首席で卒業しているのだ。  それに次ぐ成績の蓮は、ミスターT大であり、叶衣がめっちゃお似合いなのがまた胸糞悪いと言った意味も理解できるような気がした。  いつも3番手扱いの璃空。周りはそれでも平等に盛り上がるが、璃空には全く関心がなかった。1番というものに興味がないのだ。  小、中、高校と勉強もスポーツも全て1番だった。1番を取れば両親は褒めてくれたが、兄の大地も常に1番だったために特別なことでもなかった。  そこに出会った律と蓮。名前の読みが2文字というだけの理由で近付いてきた蓮。「呼びやすいだろ」そう言われた時、本当に頭が良いのかと疑ったほどだ。  それでも大学を卒業して10年が経った今でも定期的に集まるのだから2人のことが嫌いではないのだろうと璃空は思う。  2人が自分よりも頭が良い。そう知った時、少し肩の荷が降りたような気すらした。取りたくて取ったわけではない1番から解放された気になったのだ。それからは3番手の気楽さが心地よく、1番への興味は更になくなった。
/307ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15097人が本棚に入れています
本棚に追加