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ある日、師匠と一緒に食事をすることになった。お互いに稼いでいるだけあって、けっこう高級な料亭に行った。
そこで見た師匠に、正確には師匠の背後にいるものに、俺は愕然としてしまった。師匠の後ろには、憤怒の表情を浮かべた若い女性の霊が立っていたのだ。
けれど師匠は、何も気にした様子がない。
あの、と俺はおそるおそる聞いてみた。
「師匠、それ、視えないんですか?」
すると師匠は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに納得したように微笑んだ。
「いいか?私たちの能力は、全てが視えるというわけではないんだ。特に、向こうが気づかれたくないと思っている場合はな」
「いや、ヤバイですよ、それ」
話している間にも、霊の顔は怒りに酷く歪んでいった。
「こんな商売をしていると、悪いものに恨まれるんだ。お前も気をつけろよ。どうやら、お前も視えていないようだしな」
師匠は達観したような口調で、俺の肩越しに何かを見つめながら言った。俺は、そのときだけ今までに感じたことのない悪寒に襲われた。
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