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今日は僕のインタビューが載った本が発売される日だ。もちろん出版社から一冊提供されているけど、僕はあえて本屋でその雑誌を買って帰る。
妻である凛子さんに、読ませたいだけでなく、どうしても渡したいのだ。
「ただいま」
「おかえりー」
玄関から声をかけると、キッチンから夕食の準備をする凛子さんの声がする。結婚三年目。子供はまだいない。
「お土産」
「何?」
ダイニングに顔だけ向けて凛子さんが聞いてくる。僕は手に持った雑誌の袋を掲げる。
「これ、前言ったやつ。インタビューされた記事が載ってる」
「あー」
テキパキとテーブルを作りながら、凛子さんは頷く。
僕は小説家をしている。
どうにか出した五冊目の本は、大賞を取った一冊目の売り上げをやっと超えることができた。それで一冊目以来久しぶりに、売れている作家としてのインタビューを受けることができたのだ。
「言ってたね、最新刊の話と、これまでを振り返って色々聞かれたんだっけ」
「そうそう。言ったと思うけど、凛子さんのことも話したからね」
「もー」
困ったような、嬉しいような顔をしながら凛子さんもテーブルに着く。
「で、それが載ってるわけね」
「そ。でもまずは夕食食べようか」
「そうね」
今日は僕の好きなカレーだ。嬉しいことがある日はカレーを食べることにしている。凛子さんのカレーは絶品だからだ。
「いただきます」
手を合わせ、食べ始める。
「わざわざもう一冊買ってきたってことは、それ、私にくれるの」
「凛子さんのことも載ってるんだから、記念にと思って」
「私が書いたわけでも、インタビューされたわけでもないのに」
そう言いつつも満更でない凛子さん。自分で言うのも何だが、パートナーがそれなりに売れている作家で、自分のことが書かれているとなれば気にはなる。
「凛子さんこそが、僕がこの仕事を始めた理由だからね」
「キミが文芸部に入ってきた時のこと、書かれてるの?」
「そう」
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