死者を運ぶ者

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我は()く。 冥府にただ一人、あちらとこちらを繋ぐ者。 『船を出せ 死者(ひと)を乗せろ 審判の場へ 我が王(ハデス)の元へ』 冷たい川に、冷たい亡者。 オボロスを一枚。無賃乗船など(ゆる)しはしない。 『船を出せ 死者を運べ オボロス貨が無いものは 冷たい川でただ待つのみ』 冥府を統べる我が王よ。漆黒の中にぽかりと浮かぶ大きな眼を持つ我が王よ。 「(くら)き冥府に見目の善し悪しなど無意味。あるのは魂の(かたち)、それを以て裁くのみ」 美醜に取り憑かれた天の神々よ。 嗚呼、愚かなり!冥府は(くら)く、(くら)いが故に美醜など無意味と我が王は仰せだ。美醜に囚われて(なかみ)を喪った者どもよ。冥府(ここ)はどんなものでも等しく受け入れる。我が王がそれを赦す限り―― 我が名はカロン。 おぞましきも誇りある冥府の渡し守。
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