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僕の欠片 4
車で来ていたいもじゃに自転車をトランクに積まれて、車の助手席に押し込まれた。
10年位ぶりなので、何をしゃべっていいのか分からない。
そもそもあの頃の自分たちは会話をしていたのか、身体ばかり繋げていた気がする。
「車、持ってるんだ」
「レンタカー、駐車場代高いから」
「へー」
「4万以上するんだ」
「こっちだと家借りれるな」
空虚な会話。話をするならこんな内容じゃないだろうに。聞きたいことに片鱗も近づいていない。
あれからどうしていたのか。
今、何をしてるのか。何でここにいるのか。結婚はしたのか。付き合っている奴はいるのか。自分のことを怒っているのか。自分のことをどう思ってるのか。
僕の頭の中はいろんな書体とPtで書かれた聞きたいことでびっちりだ。
いもじゃの住んでいた、いもじゃの祖母の家に着いた。
自転車をトランクから降ろしてから案内されて中に入った。
少し埃っぽいが線香の匂いは昔の思い出のままだった。
別れさせられてしばらくして、いもじゃのお父さんが亡くなった。
元々持病を抱えていたようだった。
祖母は入院中。
いもじゃは一人で戦って一人で勉強して東京へ行った。僕には出来ない事だ。
飲みものを用意するため、いもじゃが台所にたった。
昔そこの畳の上で、二人で転がってくっついていた。
ここであった事は、まるで夢まぼろしみたいだ。
缶ビールを渡された。酒は久しぶりだ。
机の上はすでに乾き物が載っている。
簡単に乾杯をした。
「お前と酒を飲む日が来るなんて、感慨深いな」
「そだな」
冷たくてほろ苦い苦いビールをすする。
いもじゃはおいしそうに飲んでいる。
あの事件以降、誰にも上書きされていない僕には、いもじゃの存在は大きい。
酒を酌み交わす、目の前のいもじゃは、頼りがいのありそうないい男に見えた。
きっと沢山の社会や恋愛経験を積み、多様な人間関係を持っているんだろう。
同じ時刻、同じ場所にいたのに、今の二人の立ち位置は遠い。
彼にとって過去形になった自分は、田舎の同級生という位置付けなんだろうと想像した。
「なんで、八森に来てるんだ。仕事じゃないのか?」
田舎の同級生だったら聞いても差し支えなさそうなことを聞いてみた。
「まとまった時間が取れたから、この家を取り壊す前に荷物を整理しに来たんだ」
「いつまでここに?」
「一週間はいるかな、逆に信はどうしてるんだ」
「僕? 仕事辞めてから家にいるよ。親は早く仕事探せって、うるさくて、うざい」
親や仕事、将来のことに触れると全てを遠くに放り投げたくなる。今さら頑張っても親の望むスタンダードな人生設計になんて戻れないし。そもそもそんなの無理だし。
今さら取り繕っても、見栄を張ってもしかたないし。
今さら変えられないけど、目の前にいるいもじゃに、あの時のことを謝れたら抱えている後悔が減るような気がした。それ以外、今解決できるものはないし。
「じゃ、片づけ手伝って。バイト代出すから」
「いいよー」
軽く返すと、いもじゃが、じっと僕を見ている。
「なに?」
「いい意味で変わった。無理していない感じ」
「もう、失うもの何も無いから。マウント取ってもしかたないし。色んなこと、どーでもよくなった」
明日から、いもじゃの家の片づけを手伝うことになった。
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