僕の欠片 5

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いつの間にか僕は泣いていた。 「何で泣いてるんだ」 いもじゃが唇で目元をふさいだ。 僕の中には、いもじゃのかけらがあった。他はなだらかなのに割れ口の一辺だけが、鋭利な刃物のようだ。 そこにはずみで触れるたびに、僕は血と涙を流す。 時間の経過ともに、いろんな人のかけらは小さくなっていくのに、いもじゃのかけらは、まだ大きい。 今のいもじゃが、従来のかけらに足されて大きくなる。 でも、分断面は鋭利なままだ。 僕は触れては、また見えない血を流す。 見えないから、いや見たくないからこそ目をそらし、僕は痛みに向き合わなかった。 無視していたけど本当は痛かったんだ。   痛いんだ。心の奥が痛い。 やっぱりこのまま放置は嫌だった。 天井の木目の天板に目をやる。 天板と僕の間にいもじゃの顔が割り込んできた。 「昔から好きだった」 寝転びながら、いもじゃの目を捉えて続ける。 「親がいもじゃを一方的に責めた時、何も言えなかった。かばえなかった。僕が、いもじゃを、引きずり込んだのに」 胸が勝手に熱くなり、目元が急激に潤んだ。 「本当に、ごめんな」 僕を見下ろすいもじゃは驚いていた。 傲慢だった僕が、素直に気持ちを吐露することに。 僕はあの事件から傲慢じゃなくなったし、また今日、自分の気持ちを見ないふりをするのは止めたんだ。 「俺こそ、親父の葬式の後、会いに来てくれたのに。素っ気なくしてしまって。あれで嫌われたかなって思ってた」 「なんとも思ってないよ。嫌われてるのは僕だと思ってた」 それから僕達はいろいろ話をした。 あれからのことを、本当に話したいことを、これからのことも、欠けていたピースを埋めるように話した。 セミナーで誠人に会ったらしい。そこで僕の近況を聞いたそうだ。 いもじゃは最近会社を辞めたばかりだった。新しい会社の入社まで時間があって、今回は家の整理は口実だったそうだ。 でも実家の取り壊しはやるようで、片づけは本当に必要らしい。 タバコによる緩慢自殺の目論見について話したら、笑われた。 「まだ死にたい?」 「そうでもない」 「なら、もうこれ、要らないな」 持っているタバコをゴミ袋に放られそうになった。 「待て待て、せめて残り位は、お別れさせろ」 慌てて、いもじゃから奪い取る。 タバコを吸っているとき睨んでいたのは、タバコ自体が嫌いなのと他の男の影響を勝手に感じたらしい。意外と嫉妬深くて勝手だ。
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