僕の欠片 3

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昼間は人目があるから外には出ない。 隣の集落にあるコンビニにチャリで向かった。 ずっと家にいる訳ではなくて、隣の集落で季節性のバイトがあればやった。 過去の貯金とそれで稼いだ金を少しつづ取り崩して生活していた。 離れに住み、親に寄生していたので光熱水費は無料、食費も無料。 取り崩した金は社会保険、携帯代や嗜好品や雑誌などの購入に充てた。 大学入試を失敗して親のコネで地元の建設会社に就職した。 真面目なタイプもいたけれど、やたら大声の大きい人や体育会系のノリが幅を効かせていて自分には相容れなかった。 飲み会では飲みを強要され、二次会三次会ではキャバクラや風俗を強要された。 先輩達の会話は野球と酒と女の話ばかりで、しんどかった。 本当に辛かったのは自分達の仕様のミスを下請けのミスにしリベートや接待を強要していることだった。 そんなことはよくある話らしく、こんなことを繰り返して故意に裏金を作っていたらしい。 目の前で正義がねじ曲げられていく。 立場の弱い人が踏みつけられていく。それに間接的にでも加担するのは耐えられない。 責めたてられる原因を作ったはずの自分は、安全な場所でただ見ているだけ。 いもじゃを一方的に責める親を止められない自分。何もしないなら親と同罪だ。 もうあんなのは厭だと思った。 勝手に会社を辞めてきたので親と喧嘩になった。親は自分のわがままで辞めたと思っている。事情を説明しても、きっとそれが仕事だ、現実はそんなものだと言ってくることは目に見えていた。 役場の採用試験を受けろとうるさく言う親を尻目に、自分でハローワークに通い仕事を見つけてきた。 そこは無理筋の目標を掲げ、達成出来ないとおかしいと従業員を追い詰めるブラックな会社だった。常に求人が出る会社で、人は居着かず、すぐに新しい人に入れ替わっていく。1年しがみつき精神的にも体力的にも疲弊し、限界になって逃げるように辞めた。 疲労で身体が沼に沈んだように重く布団から起き上がれない。なかなか寝付けず昼夜が逆転する。 家から全く出れない日々が続いた。 久しぶりに外に出ると季節は冬から春へ変わっていた。 農業を手伝うのも有りかなと思い、親戚の農作業の手伝いをした。 しばらく続けていたら縁談の話が持ち込まれた。農家の入り婿の話だった。 働きぶりを観察されていたらしく誰かのお眼鏡にはかなったようだ。 家は東京にいる弟の誠人に継がせるらしい。体の良い厄介払いだ。 いもじゃのことがあって、また誰かを傷つけてしまうのが怖くて人と関わってこなかった。 親は認めたくないだろうけど多分自分の性的志向は同性だ。 縁談を断ると親は怒りだした。どうやら縁談を最終手段の最善手と考えていたようなのだ。毎日顔を合わせるたびに言い争いをして、しまいには離れに閉じ籠もった。 もう法事や地域行事にも出ない。 これまでも近所や、親戚の評判は芳しくなかった。 いい歳した男が家でぶらぶらしている。 家で何をしてるか、交流もしないので何を考えているのか分からない。 周りが不安に思う気持ちは分からないでもない。 今回の縁談の話も親や親戚がやっと見つけてきたものだろう。 現状の打破を狙ったものだ。
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