手紙を読んで

3/4
前へ
/8ページ
次へ
 ヒトミははっとして、おそるおそるユキト聞いた。 「……あ、あの、お父さんも、見たの? 手紙……」 「ああ……うん。会社でさ、車の任意保険の書類を提出してって言われてさ。で、保険証書が入ってる抽斗(ひきだし)から手紙が出てきてさ」  ユキトがお湯を沸かしながら言った。 「宛名が自分たちだったら、読むじゃん? ……読むなって書いてないし」  読むじゃんって……。確かに『母が生きているうちは開封禁止』とは書かなかったのは私だ、とヒトミは思った。 (でも、そんな偶然って、ある!?)  保険の書類しか入っていないあの抽斗は、用が無い限り普通は開けない。  だから、自分の生命保険の手続きのためにきっと開けられる。その時に手紙が見つかるはず、とヒトミは思っていた。 (無事に帰ってこれたら、そっと手紙を回収して捨てればいいと思ってたのにっ! 恥ずかしすぎ……っ!)  ヒトミは立ちつくしたままだった。 「お母さん、座って? 紅茶どうぞ。……ああ、お前はいい奥さんだと俺は思ってるよ」  ヒトミの好きなアップルティーをリビングのテーブルに置きながらユキトは笑顔で言った。 「……えっ」 (手紙の……! でも、そんなことユキトさんから初めて言われたかも……)  ヒトミはちょっと嬉しくて、顔が笑ってしまった。 「ちょっとー。子供たちの前でラブラブするの、やめてよー」  トモカがにやにやしながら両親に言った。 「まあ、いいじゃん。この手紙のことはさ、お母さんが無事帰ったから笑って話せてるんだし」 「そうそう」  タカトとヒロトも笑いながら言った。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加