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ヒトミははっとして、おそるおそるユキト聞いた。
「……あ、あの、お父さんも、見たの? 手紙……」
「ああ……うん。会社でさ、車の任意保険の書類を提出してって言われてさ。で、保険証書が入ってる抽斗から手紙が出てきてさ」
ユキトがお湯を沸かしながら言った。
「宛名が自分たちだったら、読むじゃん? ……読むなって書いてないし」
読むじゃんって……。確かに『母が生きているうちは開封禁止』とは書かなかったのは私だ、とヒトミは思った。
(でも、そんな偶然って、ある!?)
保険の書類しか入っていないあの抽斗は、用が無い限り普通は開けない。
だから、自分の生命保険の手続きのためにきっと開けられる。その時に手紙が見つかるはず、とヒトミは思っていた。
(無事に帰ってこれたら、そっと手紙を回収して捨てればいいと思ってたのにっ! 恥ずかしすぎ……っ!)
ヒトミは立ちつくしたままだった。
「お母さん、座って? 紅茶どうぞ。……ああ、お前はいい奥さんだと俺は思ってるよ」
ヒトミの好きなアップルティーをリビングのテーブルに置きながらユキトは笑顔で言った。
「……えっ」
(手紙の……! でも、そんなことユキトさんから初めて言われたかも……)
ヒトミはちょっと嬉しくて、顔が笑ってしまった。
「ちょっとー。子供たちの前でラブラブするの、やめてよー」
トモカがにやにやしながら両親に言った。
「まあ、いいじゃん。この手紙のことはさ、お母さんが無事帰ったから笑って話せてるんだし」
「そうそう」
タカトとヒロトも笑いながら言った。
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