日和姫~化粧師の秘密~

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 街頭にある巨大なテレビを一人の少女が睨みつけている。少女の名前は小谷ツヤ。  まるで、親の仇のようにガラスを睨みつけている。  テレビは彼女にとって、仇ではないが、その奥のテレビに映る女性は、仇のようなものだ。  テレビの女性はツヤの姉、ひかりだ。  顔が小さく、目鼻立ちのバランスがいい。肌も雪のように白く、笑うとさらに華やかさが増す。  彼女が意図して振った手でなくとも、それを画面越しに見ただけで、心が動く。そういう、得意希なる才能のある人だ。  ツヤは死ぬほど憎らしいからか、実際にそこに姉がいるわけでもないのに、テレビから目が離せない。  そして、ゆっくりと手を振り上げた。  その手にはどこで拾ってきたのか、彼女の拳大ほどの石が握られていた。  無骨で棘のある石だ。その棘は彼女の掌を赤くする。だが、構うことはなかった。彼女はただ目の前にいる、美しい女性めがけて、拳を振り下ろす。 「いけないよ」  ぱしっと、腕を掴まれた先を振り返ると、見知らぬ男が立っていた。 驚くほどに色白の男だった。年は若くも年老いても見える。  まさか、そんな男にこの場を目撃され、止められると思っていなかったので、ツヤは掴まれた腕を振り解くことなく、ただただ男を見つめてしまう。 「いけないよ。それでは君が怪我をしてしまう」  再びの問いかけにツヤの顔が真っ赤になる。  男に諭されたこともそうだし、腕を掴まれていることもそうだし、何より醜い自分を見られたことがたまらなく恥ずかしかった。  ツヤが顔を背けると、画面には泣きたくなるくらい醜い自分がいる。  ガラスの向こうにいる姉とはちっとも似つかない。  丸い鼻に、薄い唇。目は線のように細く、ほくろも多い。  姉の優秀な遺伝子を自分は一ミリも分けてもらえてない。  ツヤは顔を上げることができず、深く俯いた。 「大丈夫かい?」  頭の上から優しい男の声が降ってくる。  ツヤは両手で顔を覆った。できることなら、この醜い首を切り落としてしまいたい。拒絶で首を振るツヤの頭を、若い男は優しく撫でる。 「おいで。お茶でもしよう」  そう言われて、電車に乗せられ、歩いた。  見ず知らずの男についてきたのだから、どうされようと文句はいえないし、ツヤ自身、この後がどうなろうとどうでもよかった。  男は時折、鼻歌を歌いながらツヤと手を繋いだまま歩いた。  ツヤは男性と手を繋いだことなど、ほとんどなかったが、見知らぬ男の手は性的なものより、まるで老人のように優しく、穏やかなものであった。
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