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「ねえ、なぜこの仕事を選んだの?」
私がそう聞くと、あなたは毎回違うことを答える。
「だってカッコいいだろ」
確かに制服を着たあなたはすごくカッコよかった。
「親父もそうだったしな」
あなたが高校生の時に病気で亡くなったと聞いた。
仏壇の写真でしかお会いしたことがないのよ。
「安定した職業じゃん。ボーナスあるし」
そうね。公務員だから。
「亜美と出会うためだよ」
道が分からなくて途方に暮れてた時に、一緒に探してくれたんだった。
あの時のあなたは本当にカッコよかった。
しばらく後にお礼を言いに行って、それからちょっとして私たちは付き合い始めたよね。
そのせいで、あなたはよく先輩にからかわれてたっけ。
でも結婚するときはみんな、すごく祝福してくれた。
「この町が好きなんだ」
そうね。私も好き。
ご近所様はとても優しいし、坂の上から見下ろす景色はゴチャゴチャしてるけど温かい。
「誰かの役に立ちたくて」
それは素晴らしいことよ。
でも。
私にとっては……。
涙が落ちて、あなたの写真を濡らす。
黒い額縁に入ったあなたを。
ねえ。
なぜこの仕事を選んだの?
問いかけても、もう答えは聞こえない。
犯人を追って、子供を守った。
あなたの命と引き換えにして。
この仕事が、今の私には少しだけ……。
【了】
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