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~死神と魔女は希望に依存する~
「あなたが私を死神にしてくれてから、どれくらいたったかしら?
あれからずっと、仕事の時でも一緒にいるでしょう?
そのせいで私、人から魔女って呼ばれてるのよ?
笑ってしまうわね。死神と魔女よ」
そう言ってかつて少女だった魔女は、くすくすと笑う。
そんな魔女を視界の隅に、かつて青年だった死神はふっと優しく微笑んだ。
「いいじゃないか。魔女。かわいらしいきみに似合っているよ?」
「本当にずっと興味を向けてくれるのね。
飽きないの?
私ってそんなに面白いかしら?」
死神は手にしていたケトルや誰にともなく淹れられたコーヒーを脇に置くと、向かいに腰掛ける魔女の頬へ手を伸ばし、カウンター越しにキスをする。
一呼吸の後、死神はその唇をわずかに離し、魔女の頬にそっと触れたままで囁いた。
「ああ、興味がつきない。
僕は、きみの瞳がころころと色を変える様が好きなんだ。
きっと、きみに生きたいかと訊ねたときには、すでにきみに恋していたんだろうね。
我ながら、歪だと思うよ。
で も、きみの瞳に恋い焦がれる気持ちを止められないんだ」
そんな死神に、魔女はやはりくすくすと笑って答える。
「私も、負けていないと思うわ」
今度は魔女が死神の頬をそっと両手で包み、その蒼い瞳を漆黒の眼へまっすぐ向けて囁く。
「私にもちゃんと理由があるのよ。この仕事を始めた理由が。
あのとき、あなたが向けてくれる眼差しを愛してしまった。
だから、私はあなたのそばで、その眼が私を見てくれるところで、生きたいと願ってしまった。
そして、あなたは私を、私の瞳を見てくれる。
あなたは私が得るはずのなかった愛を与えてくれる。
それがどんなに歪であろうと構わない。
私はいつまでもあなたの仕事をお手伝いするわ。
私を魔女にしてくれて、ありがとう、死神さん」
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
一人も客のいない店内には静かにジャズが響き、香ばしいコーヒーの香りが匂い立つ。
魔女の瞳に恋した青年と、死神の向けてくれる眼差しを愛してしまった少女は、今日も手を取り合って誰かの死出を迎えに行く。
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