私が“ねえや”になったわけ

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 高校3年生の12月中旬。私、佐納初海の元に、仕事の打診がやって来た。 『6歳になるお嬢さんのお相手というか、お世話係というか、そういった仕事をしてくれる歳の若い女性を探している方がいるんだ。君に合うんじゃないかと思って』  うちの稼業は、代々続く老舗の仕出し屋。だった。経営が傾いて店をたたむことになり、後を継ぐ勉強のため大学に進学するという道を断たれた私は、そのとき、気乗りしないままに職探しをしていた。だって、進みたいのは仕出し屋を継ぐための仕事、でもそんな仕事を選んだら、両親に負い目を感じさせてしまうから。  そんな私に、常連客の方が話を持ってきてくれた話が、これだった。私のことを心配して、わざわざ伝えに来てくれたんだ。 『ご両親ともにお忙しい家でね。一緒に食事を作って食べて、そんなような子どもが健やかに成長するのに大切なことを共有してくれる、お姉さんのような人がいてくれたら、とお考えらしいよ。本当なら自分たちが傍にいるのがいいのだけれど、それが叶わないから、せめて最善のことを、とおっしゃっている』 そのために人を雇うの? お金持ちのお嬢様なのね。幸せな子。いや、実の家族と一緒に過ごせなくて代替物を与えられる、不幸せな子? 『とりあえず、会ってみたら? 貴禰(たかね)ちゃん、ああ、そのお嬢さんの名前ね、彼女だって、自分の世話係になるかもしれない人がどんな人が知りたいだろうし』  確かに、そうね。目標を見失っても、舟を漕ぎ始めたら、また何かが見えるかもしれない。顔も知らない“友人”、ゆいさんの手紙を読み返して、決意する。 「はい、会ってみます」
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