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「関本工業の社長が、逮捕されたよ」
上司であり、湯浅システムの社長、湯浅輝誠からそう聞かされたのは、それから3ヶ月後のことであった。
罪名は、特別背任罪。
本来の価格より高い金額で発注書を作り、差額を懐に入れていた、というのがその容疑だという。
「まさか、関本社長が……そんなはず……」
京也には、到底信じられなかった。
いくら人は見た目では分からないと言っても、何度か通い、実際に話した人物だ。関本社長は、取引先の下請けである京也にも、いつも丁寧に敬意を持って接してくれた。
その娘である歌澄も、綺麗な仕草でお茶を出しながら、「お世話になっています。いつも父が、無理ばかり言って申し訳ありません」などと、丁寧に挨拶をしてくれていた。
歌澄の言う「無理」とは、金額のことではなかった。
関本工業からは、ちょっとした不具合やトラブルで、すぐに呼び出しがかかったのだ。
ただそれは、システムに関して、全くの素人である自分達で何とかしようとするより、開発元の保守担当である京也に頼んだ方が、大事になる前に解決できるだろうという判断からである。
中には、再起動すれば直ってしまうような軽微なものもあったが、京也は快く、訪問した。他の顧客で、自分達で何とかしようと下手に触ったため、却って復旧に手間が掛かった例があるから、すぐに呼んでもらえるのは有り難かった。何より、歌澄に会えるのが、楽しみだった。
公孝の逮捕を知って二日後、京也は警察から事情を聞かれた。
スネークスの担当者や関本工業の担当者を聞かれたため、植村の名と、関本工業の専務である菱田の名を出した。
これは何も、京也が公孝を庇ったわけではない。
公孝からは、トラブル時に呼ばれることはあっても、システムの導入については、専務の菱田と話を進めていたのだ。
この時京也は、低額の見積書の件を、すっかり忘れていた。新規導入システムについては、本来の適正な価格での発注が来ていたため、あの価格では無理だと、先方が納得したものだと考え、そのまま忘れていたのだ。
もし、警察に話を聞かれた時、その件を話していれば、少しは結果が違っていたかもしれない。
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