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「何ですか、それ」
希海の視線が、冷たく刺さる。京也の言い方に問題があるとはいえ、変な誤解をしていることは、明白だった。
そこで京也は、端的に事情を明かすことにした。
「今は両親のペーパー離婚で、母方の津崎を名乗っているが、以前は関本だった、と言えばわかるか」
希海は森川同様、ケルスの中で、京也と関本工業の関わりを把握している数少ない人間だ。だから、それだけ言えば充分だった。
「なるほど……では、紹介予定派遣になりますね。ですが、使えなかったら、3ヶ月で契約終了しますよ」
希海の返事はもっともだった。
ケルスは例え事務職でも、完全実力主義。始めから正社員として雇用した人間は、さすがに仕事が出来ないという理由で解雇はできないが、本人に合った部署が見つかるまで、異動を繰り返す。
しかし派遣社員は、最初の3ヶ月である程度判断し、見込みが無ければ契約終了することになっている。見込みが無いというのは、仕事が合っていないということだというのが、京也の考えであった。もちろんその際、本人の希望があれば、他部署で新たに契約することもある。しかし、欠員が無いのに補充するわけにもいかないから、それは時の運次第だ。
その反面見込みがあれば、3ヶ月後には正社員の登用試験を勧める。3ヶ月共に仕事をして、その部署の人間に一緒に働きたいと思わせる人物であれば、派遣社員のまま長く契約するより、正社員として相応の待遇で迎えるべきなのだ。
ただ、普段は一般の派遣として契約し、3ヶ月後にどうするか検討することが多い。
今回、派遣会社に手数料を払ってまで紹介予定派遣とするのは、相手を指名するためだ。そうでなければ、違法行為となってしまう。
「それは大丈夫だろう。事務の経験は長いはずだ」
「わかりました。使えそうなら、3ヶ月後には悪くても契約、よければ正社員ですね」
「話が早くて助かる。よろしく頼む。あ、俺のことは言うなよ」
希海の仕事は早く、次の週には、紹介予定派遣として津崎歌澄がケルスに出社した。
京也は当初、歌澄をそのまま営業1課の事務として雇用するつもりだった。
しかし、3ヶ月間の歌澄の仕事振りを見て、どうしても自身の秘書にしたくなったのだ。
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