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そして、朝
「誘拐および人身売買の疑いで、強制捜査にご協力いただく」
黒い服に身を包んだ男たちは、下りっぱなしだった表のシャッターを無理矢理こじ開けると、一斉に工場内へとなだれ込んできた。
昨夜までの雪が積もったままなのではないかとアリヤは懸念していたが、朝方の陽射しによって路面は身動きが取れる状態にまで戻っていた。
その幸運にアリヤは安堵しながら、裏の旧工員通用口からつぎつぎと子供たちを放った。
ひとりでは足腰の立たない子供は、体格の大きな別の子供に背負わせた。
「行け、行け! 前の子に続いて走りなさい」
「ねぇアリヤはどうするの? 工場長は?」
たどたどしい口ぶりのヒオンが今にも泣き出しそうな顔で、アリヤの作業着の袖口を掴んだ。乱れなく整然と保ってきた制服に、くしゃと皺が寄る。
「大丈夫、あとから追いつくよ。悪者が入ってきて危ないから、早く逃げるんだ」
後ろを何度も振り返りながらヒオンは、同部屋の子供に手を引かれ、雪の解け残る道を走り去っていった。
ここに来てたった数日なのに、いつのまにか仲良くなっていたんだな。ヒオンもあの子もまだ修繕前だっていうのに。
修繕なんてしなくても、もしかしたら、子供は勝手に立ち直れるものなのかもしれない。
アリヤは少しばかり複雑な思いに駆られ、それから、この心のわだかまりは他人のものではない。間違いなく自分のものだ。と唐突に理解した。
子供の修繕は自分の仕事でもあったのだ、私も職人の端くれだったのだ、と空を見上げた。
光が差している。地上にいる人間全員をまんべんなく照らすのに十分なだけの光だ。
修復が完了して出て行く間近だった子供を先頭にして、駆け込む先までの道順を記した地図は渡してある。
途中で捕まって親元に戻されることになるかもしれないし、駆け込んだ先でうまくいくとも限らないが、今見たあの子たちの様子ならなんとかなるような気がした。
生き延びろよ――。
これからは自分で、自分の道を作り変えながら、生きていけ。
遠ざかっていく小さな背中の群れに有りっ丈のエールを送りながら、アリヤは工場内に撒いたガソリン溜まりの上でマッチを擦った。
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