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そして、もとは一体の壊れた子供に過ぎなかった私を、職人の側に招き入れたとき。工場長が仄めかした「もう戻れない者どうし」というのはたぶん……。
アリヤは冷静に考えを巡らせる。
完全に修復したところで、私を受け入れる古巣はなかったのだ。
私が先に壊れたことがきっかけだったにせよ、自分はあの家で必要とされない存在に成り下がってしまった。
工場長の告知によって私は子供であることを奪われ、ほかの子供を修繕することが使命のこの工場で、補佐という役目を負うことを運命づけられた――。
私にとって、もう帰る場所はここしかない。
とうに時刻は深夜を回っていたが、意識は生きてきた中でもっとも明瞭と言ってもよいほどだった。ますます眠りは遠ざかっていく。
こんな夜には、工場の昔の機材を磨こう。
そう思い立ったアリヤは、ほかの部屋に物音が伝わらないよう気を付けて寝具を抜け出た。
寝間着の上から作業着を羽織ってファスナーを閉め、ホールにせり出した通路を進む。
中央に設けられた一階への階段まで静かに歩けば、対極の奥にある工場長室まで足音は響かないだろう。
「子供を修繕することの意義が、おまえならきっとわかるでしょう」
遠い日の工場長の声が頭の中でこだまする。
えぇ、もちろんです。今の自分の気持ちと、過去の自分の返答が重なり合って弾け消えた。
続きの言葉が、後からやってくる。
「おまえにはわたしの片腕になってほしいの。わたしの信念の裏にある消えない罪を、わたしが忘れてしまわないように」
そうだ、あの人は罪という言葉を使っていた。
自分が犯す罪の証人として、その始まりだったおまえを近くに置いておきたい。
これはただの情けではないのだと。
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