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数時間前にハンナさんから聞いた「子供を連れてくる合意」という堅苦しい言葉が、ぐるぐると渦巻いていた。
合意――。
ほかと一緒くたに大量生産された子供を、ひとつの家に迎え入れて囲うことの方が、今のアリヤにはよほど不合理であるように思えた。
ひとりの子供を、別人格の大人がその固有の価値観に基づいて管理できる裁量など、赦してよいものなのだろうか。
保護者という名目のもと、はたして命は私物化されるべきなのか。
子供という存在は、家族という名の共同体の中で固着してこそ完成するとでもいうのか。
ならば私は――。
そのとき、重量のあるものが落ちたような、タンっという音が聞こえてきた。
物音を立てぬよう気を付けていたアリヤは、思わず身を震わせた。
続いてなにかを擦るような音。タタンっという小刻みの物音は一定のリズムを刻んでいた。
明かり取りの天窓からは、満月の光が降り注いでいた。昼間降り続いていた雪は晩になって止んだようだ。
音のする一階を通路から覗き込むと、昼間は子供たちの作業場となっているホールで、工場長が白い手足をいっぱいに伸ばして踊っていた。
肩から羽織った深紅色のショールが、優雅に回転する彼女の周りで浮き立っている。
その姿は、斜め上の二階から眺めているアリヤに、人知れず大輪を咲かせた薔薇の花を想起させた。
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