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花びらの縁が外側に反り返った薔薇を真似るかのように、夜の工場の底に落ちた重力は、柔らかな風合いのショールを下へ下へと誘おうとする。
音楽もなしに踊る身体が生み出した遠心力がそれに抗って、赤い布は円を描きながら、虚空になびいた。
布の薄さの上には陰影がくっきりと現れていて、それはあたかも意志を持っているようだった。
月光だけで照らされる身体のラインの移り変わりが、アリヤを惑わせた。
それは美しいばかりではなく、贖罪の色を含んでいることがアリヤにはわかった。
憂いに満ちた女王の舞に、長年の答え合わせを見たかのような思いだった。
かつては純粋に子供を製造していたこの工場で、工場長がやっていること、そしてアリヤも加担していること――子供を人為的に修繕する仕事は、世に認められぬ所業なのだ。
こんなにも社会に必要なのだと私たちが確信していても。
だって、あの子も、あの子も、あの子も、みんな出会ったころよりもずっと良くなったのに、という思いがアリヤの中でみるみるうちに膨らんでいく。
受け入れた初日から、なにを尋ねても、どう話しかけても、「はぁ?」としか返してこない子供に頭を悩ませたことがあった。
「困ったことはない? 毛布は足りてるかい?」
「はぁ? 大丈夫だし」
「作業、上達してきたね。ほかの子の手本にしたいぐらいだ」
「はぁ?」
ここに来るまでの境遇の中で編み出した虚勢なのかもしれないし、自分がされた大人からの仕打ちを真似た口癖なのかもしれなかった。
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