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 ここに搬入されてくるのは、壊れた子供だ。  街にあふれる壊れたまま放置された子供を見かねて、最初に工場長が手を引いてきたのがアリヤだった。  アリヤは今ではもう、己が壊れていた時代の記憶はほとんど思い出せない。  ただ、自分が生産されたのがこの工場だったらよかったのに、と老朽化した加工機材を愛おしそうに()でながら時折つぶやいた。  生まれた命が、ある日突然自分が存在しているのだと気付くように、自分もこの場所より以前にはどんな履歴もなく、ただ純粋にここから始まったのだと思いたかった。  そのようなアリヤの内心を察する者はいなかったが、現実的な問題として、生産と修繕では大きく異なるところがあった。  新たに一から作り上げるよりも、すでに存在しているものの不調を直す方がずっと難しいし、手間がかかる。  ひとつひとつ手作業で壊れ具合をしらべて、それに応じた処理を施さねばならないからだ。  長年の生産現場で培われた経験と知識に加え、今なお日々積み上げられていく技術がものを言う。  修繕という営為は、オートメーション化が進むこの世にあって、最後に残された職人技と言えた。  いまや子供は大した煩雑もなく大量に生産され、ラインで流れてくる。  製造メソッドは体系化されているうえ、無から有への手順は、個体ごとにそうは変わらない。  それが修繕となると、途端に複雑になる。  正しく発露しないもの、恒常的に()()りできなくなったもの、初期不良が今になって影響を及ぼし始めたもの、全体的に朽ちて外形を損なったもの。  いくらかの共通項で(くく)ることはできるものの、搬入される子供の数だけ欠損のパターンは存在した。  修繕という仕事は、そのいずれもを相手取ることを意味しているのだった。
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