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 単なる時間つぶしのお遊戯会ではなく、子供にとっての動作確認という意味合いを帯びている以上、異変が生じればいち早く察知して、工場長の修繕につなげなければならない。  あくまで作業を行う主体は子供であり、もっと大きな視点で見るなら修繕を行う主体は工場長だった。そんな中にあってアリヤが担うのは、こまごまとした名前のない雑事に過ぎない。  サポートに徹する日々にむなしさを感じる間もないほどに、アリヤはよく働いた。工場の歯車というよりは、その間を自在にゆきわたる潤滑油のような、滞りのない存在でありたかった。  忙しい中で暇を見つけては、作業着のポケットから端切れ布を取り出し、そこらに転がっている機材や工具を磨いた。  工場だったころの名残(なごり)を窺わせる朽ちた機材が、アリヤは好きだった。  一日中ベルトコンベヤーの稼働音が止まなかった時代に、ここで製造されて外の世界へと出て行った、出来立ての子供たち。その華々しい未来の象徴であるように感じていた。  工場が子供の生産から撤退した今となっては、もう使われることはない機材は、ただ密やかに息をしている。  それをひとり磨いては自分の知らない時代に思いを馳せ、想像の活気の中で過ごすのがアリヤの余暇だった。  三日前に入ったばかりの子供が、黙々と封筒にシールを貼っているのを確かめて、アリヤは静かにその場を離れた。  ほとんど言葉を発することのない子供だが、存外、手先は器用なようだった。  慣れてきたら、もう少し複雑な軽作業を教えてみてもよいだろう。  アリヤは携えていた管理表に目を落とすと、昨日いちばん下の行に追加したばかりの新入りの欄に、その旨を記録した。
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