子供の修繕

三日前

　足もとの誘導灯は薄くて頼りなく、ふたりの黒い影がカンテラ内の炎の気まぐれで、無秩序に通路のあちらこちらへと映し出される。

　アリヤのシルエットは作業着に押し込められ、規則正しく無駄がない。
　それに比べ、子供の髪は伸びきって肩口からはみ出したうえに不揃いで、上着は型崩れしていた。

「大丈夫だよ、工場長が完璧に修繕してくれるから。ほら、その実例が君の目の前にいるだろう」

　アリヤはカンテラを顔の横まで持ち上げ、逆側の親指で自分自身を指してみせた。
　子供の瞳がゆらっと動いたのを見て、アリヤはなおも続けた。

「ほかのやつらはさ、修復できたら出て行くんだ。外の世界で立派なお役目を担うんだよ。私は工場長の助手として、こうやって残っているんだけど」

「ぼく……ぼくは……」

　あたりには相変わらず物音ひとつなく、アリヤの声だけが響く中で、共鳴しようとするかのように子供は、ささくれだった唇を緩慢に動かした。

「ぼ、ぼくヒオン。あの、名前……」

　一度で言葉が定まらない子供の声に、一瞬きょとんとしたアリヤは、すぐにまた微笑んだ。

「そうか、君はヒオンというのか。よろしくな。工場長にもちゃんと伝えておくから、安心して今日のところはお眠り」

　立ち止まった大部屋の扉を開けると、すでにほかの子供が電源を切られたように横たわっていた。
　ヒオンは小さく頷いて、手渡された毛布を両腕で抱きしめ、指示されたマットレスに入り込んでいった。

　死んだように静まった部屋の上部には、橙色の常夜灯がひとつだけ浮かんでいる。
　子供のかたまりに吸収されていった新入りを、アリヤは扉を閉めた後もしばらく通路から見守った。