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序
雪がしんしんと降り積もっていく音がする。
古くなった窓枠の木が結露で腐らないか気になった工場長は、束の間手を止め、それから、<子供の修繕>を続けた。
雪が降る音など、おかしな話だ。どれほど降ったところで、積雪に連なってしまえば、かけらとしての個性など失われる。
そのような取るに足らない存在でしかない雪に、音なんぞあるものか――。
工場長は、今度は修繕の手を止めることもなく、心の内でつぶやいた。部屋をあたためている暖炉の中で、薪が爆ぜた。
――今、修繕中のこの子供だって、世に数多生産されゆく子供の中のわずかひとかけら。
欠陥を直して、ほかの子供に連なることができるようにしてやりましょう。子供の側から、それを望む声が聞こえなくとも。わたしの手で。
彼女は工場長だが、ここが工場であったのはもうずいぶん前のことだ。だから正確には、元工場長ということになる。
けれど、今でも彼女はみなから工場長と呼ばれていた。
それはたぶん、初めてここで修繕されることになった子供・アリヤが収容された当時、ほそぼそとながらも子供の製造が途絶えていなかったから。
それから間もなくして最後の工員が出て行ってからも、アリヤは変わらず、彼女のことを工場長と呼んだ。
アリヤは自分の後に入ってくる子供たちに、「工場長のことは敬わねばならないよ」と言って聞かせるのが、自分の役目と思っているようだった。
工場長はもともと職人の出だったから、子供の製造が子供の修繕に変わったところで特に問題はなかった。それどころか、彼女は言った。
「見境なしに作っていくばかりではなく、だれかが直さなくてはならないの。ずっとわたしはそう思っていたのよ」
ベルトコンベヤーで流れてくる分担作業に慣れきっていた工員たちは、眉をひそめた。
幼かったアリヤだけは、もっともだとでも言いたげに強い眼をしていた。
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