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 駅までの通学路を歩いていると、後ろからよく知った人に声をかけられた。 「菜帆(なほ)。今日の下着、何色?」  朝の挨拶よりも先に聞こえた不躾な言葉に、思わず怪訝な顔をしてしまう。相手は菜帆の不機嫌を察しているにも関わらず、隣に並んでニカッと笑うことで自分の発言を誤魔化そうとした。 「セクハラだよ、大和(やまと)」  表情だけでは伝わらないのだと思い、言葉にして怒りを示す。同じマンションの二つ上の階に住む幼なじみの大和は『ごめんごめん』と呟いたあと『で、何色?』と同じ質問をしてきた。  大和が吐く息は白い。『もう、ばか!』と返答する菜帆の息も白い。  いつ雪が降ってきてもおかしくない季節になり、菜帆は手袋とマフラーが欠かせなくなった。けれど大和は裏地がボアになった厚手のパーカーを着るだけで事足りるらしい。寒がりな菜帆にとっては羨ましい限りだ。  駅について改札を通ろうとしたとき、券売機の隣にあった大きなツリーが目に入った。駅前の広場に置くには小さすぎるが、家庭に置くには大きすぎる、高さ二メートルほどのクリスマスツリー。  クリーム色のあわい光の配線がぐるぐると巻かれ、その間には色とりどりのオーナメントが飾られている。この時期限定の、可愛らしい装飾品だ。 「クリスマスだねぇ」 「そうだな、そういえば」 「大和は彼女と過ごすの?」 「彼女いないっての」  IC定期を改札に通して、ホームへ続く通路を歩いていく。今度は大和の方が不機嫌そうな声を出したが、その気配は一瞬で消え去った。そしてまた、さっきと同じ楽しそうな声で菜帆の顔を覗き込んでくる。 「菜帆は新しい下着、先輩に見せんの?」 「ちょっ……声大きい!」  手袋をした手で慌てて大和の口を押さえる。ふごッ、とくぐもった声が聞こえたが、菜帆は大和がこれ以上余計な事を言わないように必死でその口を押さえ続けた。
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