手向けの化粧ず

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 数日後、待ち合わせの店にやって来たのは、高級そうな服に身を包んだ60代ぐらいの女性と、高級ブランド「キャネル」の製品に身を包んだ30代半ばの女性。銀座の高級クラブのチーママ、と言われたら信じてしまいそうな迫力美人だ。  その後に続くのは、その夫らしい男性に、先の2人とは少し雰囲気の違う女性の4人だった。最後に入ってきたその女性が、4人の中では恐らく一番若く、物静かそうに見えた。  早速、お互いに自己紹介をして、定型通りの聞き取りを始める。一番年かさの女性が、故人の実の娘で、高級ブランドに身を包んだ少し化粧の濃い女性が孫娘。娘の長女で、男性はその夫、4人目の女性は、故人の末の孫娘だという。 「千尋先生のことは、以前から噂で伺っておりました。父の評伝も、きっと素敵なものを書いていただけるだろうと思います。本当に、波乱万丈な人生を歩んだ人で……」  そう口火を切ったのは、娘だった。すると、それを遮るように、キャネルの女性も口を開く。 「やだ、お母さん。実際に知りもしない過去の話より、私たちが知っていることをご説明しないと。祖父は大変な人格者で、紛争地域の戦災孤児の保護活動に寄付をしておりまして……」  会長の娘と、その長女という女性の2人は、「我こそは」とばかりに、故人との思い出話や、故人への哀惜の念を、少しオーバーなくらいに身振り手振りを交え、饒舌に語り続けた。末の孫娘の方は、それとは対照的に、始終もくもくと出てきた茶をすすりながら、時折母姉の話を補足したり訂正したりする程度だった。  そのうちに、故人の娘とその長女だけが、残りの2人を置き去りにしてヒートアップしてきた。 「お母さんは、すぐにそうやって話を盛るんだから……」 「そういうあんただって、ドラマチックに脚色しすぎじゃない?」  収集が付かなくなってきた頃、長女の夫がやんわりと2人をたしなめ、何とか落ち着いた。これ以上話を聞いてもあまり参考にはならないと判断して、聞き取りを終わらせた。  最後に、あらかじめクライアントに頼んでおいた、故人の写真と、直筆の文章とを受け取ってその場を後にした。
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