手向けの化粧ず

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 気が付くと、砂浜に立っていた。  べとつく風が髪をなぶり、頬を撫でていく。周りを見渡すと、少し離れた場所に、時代劇にでも出てきそうな、粗末な塩屋が建っているのが見えた。  そこから、少年が姿を現す。時代がかった粗末な着物に身を包んでいる。  ああ、いつものか、と思った。  その刹那、遠くから声がして、思わずそちらへ目をやった。粗末な着物姿の少女が、少年の方へ駆け寄っていく。身なりこそ粗末だが、整った顔立ちの、聡明そうな少女だった。  少年がそれに応えて、満面の笑みを浮かべて少女に呼び掛ける。  少女が少年の傍へ辿り着きそうになった時、少女の背後に、一人の男が追い付いた。体格のいい、色黒の男だ。男は少女の首根っこを掴むと、暴れる少女を押さえ付けて連れて行ってしまった。少年が血相を変えて、少女と男を追い駆けていった。  一人取り残された私は、人のいなくなった浜辺に立ち尽くしていたが、やがて意識が途切れた。
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